(いくら好きでも厭きないか?)
右隣の陣内と、彼の向こうに続くふたりの男を見やる。が、どいつもこいつも、悪くない、といった顔つきだった。期待が濃くなり真剣味が増した横顔が、表面的な笑顔にアルコールを注したせいで、勝てる勝負に挑む博打屋を思わせる半笑いになっている。下品だろうか? 好戦的だとは思えた。
麻祈はと言えば、良いも悪いもない。厭きる・厭きないといったレベルにすら達していない。好きも嫌いも介在しない。なあ、加入儀礼(イニシエーション)をどう思う? ヘボが。思うもなにも、割り当てならこなすもんだろう―――
自己紹介。相槌。相槌のような感想、あるいは感想のような相槌。求められた時に求められた最低限だけ輪に加わりながら、麻祈は淡々とビールグラスを干した。
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小皿に取り分けられ、自分の目の前に配給されてきたサラダの黒胡椒と暇をフォークで潰しているうちに、全体の酒杯の空き具合を察した誰かが、再び注文を取る。逆らわず、麻祈も同じものを依頼した。
と。
「ちょっとちょっとぉ。先生」
陣内が、麻祈に向かって声を上げた。のみならず、馴れ馴れしく肩に手をかけられては、無視することも出来ない。無言で見返すと、相手の双眸には理性が色濃く残っていたが、自制の濃度はと言うと前者より頼りない。その上、にやけている。その奇抜な香水を直接嗅いだ方がましだと思えるような、きな臭いものを覚えた。
「まだビールでいいんですかぁ? そんなカワイイの。マジで? いつも焼酎じゃん。決まって米の探すのに。今日は一体どんな風の吹き回し?」
どうもこうもなく、普段は足を運ばない店までやってきたのだから普段は口にしないアルコールを味わってみても損ではあるまいと、自分なりに模索した気分転換を実践してみただけなのだが。
なにに納得したのか、張り子の虎のように首を縦に振って、陣内が物知り顔をひけらかす。
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