「名前の漢字だって佐藤さんから聞いてますよ。布地の『麻』に、祈祷の『祈』でしょ。他に知ってることも教えてあげましょうか? 日本を住処にした理由は水と茶と酒が旨いからだとか、ひとり暮らしの部屋選びの譲れない条件はインターホンの音だとか、」
目蓋を開く。従業員が、新たなビールを運んできたのを察したから。
麻祈は相手がグラスを配膳するのを待たず、その手からビールを横取りした。のみならず、そのまま口をつけて、胃へと液体を流しこむ。ニガしょっからい麦ジュースなど飲みたいはずもなかったが、今はそのひと口を飲み下す都度に内臓が軋む音こそを鼓膜が欲していた。
中ほどまでグラスが空き、消化管の蠕動が次段階へシフトしても、陣内の話は終わらない。
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