(え? え? 直前で入れ替わったの? そんな。だったら葦呼も教えてくれそうなもんだけど。どういうこと? 身体の調子でも―――)
 そのうち、自己紹介の順番が回ってきていたことをわき腹から小突かれ、我に返る。
 隣席の子に促されるまま、
「坂田です」
 と名乗ってから、……しばし。
 妙な沈黙が場を満たしていることに気付いて、紫乃ははっとした。そう言えば他の女の子は、名前のあとに、職業やら最近のマイブームやら、あとで何らかの話題へ波及するようなエッセンスを、ひと言ふた言くっつけていた―――考えにふけるあまり、前後不覚となってしまっていた。これからなにか言おうにも、人材派遣会社のOLなんて話題性に欠けるにも程があろうし、マイブームだって最近はこれといったものは無い。そして、そういった真実をたちどころに取り繕う小利口とボキャブラリこそ、自分には存在しない。
「―――ね? ほんっとに、ほっとけない可愛さあるっしょー? 坂田さんって」
 勘付いたらしい陣内が、にこやかなアドリブでフォローしてくれるのを、情けなく受け入れて。紫乃は、自分の存在がまたひとつ卑小に縮こまるのを感じた。
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