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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「あたし次せんせーね! 失礼しまーす♪」

「あ! ゆっきー! 割り込みすんなよー!」

「るっさいっつのー。ハイせんせー。ゆっきーこと小杉由紀那、ゆっきーなでーす! よろしゅ」

「はい。これはどうも。よろしくお願いします。にしても皆さん、なんだか今日は賑やかでポップな方が多いようで」

「意外っすかー? てーか、せんせーこそマジ意外なんですけどー。お医者サマってエッライえらそーなカンジないし。あ。親しみやすーい、って意味でね。なんてーの? 予備校のせんせーっぽい。めっちゃ声響くし。指とか爪も細長くって、浮いてる血管とか、チョークで黒板とか教科書とか差してんのメッチャ似合いそー―――」

 あっちの端は、女性らがえらい熱の上げようだった。そして、こちらはと言うと、正反対だった。目の前の男性が、骨子が不明瞭だが自慢話であることは間違いない、じっとりとした能書きを垂れ続けている。

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(え? え? 直前で入れ替わったの? そんな。だったら葦呼も教えてくれそうなもんだけど。どういうこと? 身体の調子でも―――)

 そのうち、自己紹介の順番が回ってきていたことをわき腹から小突かれ、我に返る。

 隣席の子に促されるまま、

「坂田です」

 と名乗ってから、……しばし。

 妙な沈黙が場を満たしていることに気付いて、紫乃ははっとした。そう言えば他の女の子は、名前のあとに、職業やら最近のマイブームやら、あとで何らかの話題へ波及するようなエッセンスを、ひと言ふた言くっつけていた―――考えにふけるあまり、前後不覚となってしまっていた。これからなにか言おうにも、人材派遣会社のOLなんて話題性に欠けるにも程があろうし、マイブームだって最近はこれといったものは無い。そして、そういった真実をたちどころに取り繕う小利口とボキャブラリこそ、自分には存在しない。

「―――ね? ほんっとに、ほっとけない可愛さあるっしょー? 坂田さんって」

 勘付いたらしい陣内が、にこやかなアドリブでフォローしてくれるのを、情けなく受け入れて。紫乃は、自分の存在がまたひとつ卑小に縮こまるのを感じた。

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 そのうち星座繋がりで神話の薀蓄から陣内の略歴へと話題が波及する頃、遅れていた男性ふたりが到着した。陣内は、乾杯の注文のために呼んだ店員が来るまでの秒数ですら、彼らの遅刻を出汁に場を盛り上げた。それは裏表なく盛況を買うがためのものであって、彼らを貶めるものではなかったから、男らも若干迷惑そうではあったものの、ちょっかいそのものを邪険にはしなかった。

 そして、店員が現れる。

「みんな、まずはビールでいいっすよねー」

 言ってくる陣内の視線に触れられた気配を感じて、紫乃は頷くしかなかった。ビールは苦手だ。そもそもアルコール全般からして得手ではないけれども、どうせ飲めないなら、最初から仲間はずれにはなりたくなかった。

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 なんとなく一同が呆気に取られていると、陣内が慣れた様子で座席を采配し、彼自身もセンセとやらの隣の席に着く。長方形のテーブルは八人掛けで、男ふたりとテーブルを挟んだ向かい側の一列四人個別席へと、女性陣が自然に流れた。壁際の奥から詰めて座っていったので、最後尾にいた紫乃は、通路側すみっこにお邪魔させてもらうかたちとなる。

 華蘭つながりで縁でもあるのか、紫乃以外の女性三人が、妙に打ち解けた感じで密やかに囁きあうのが聞こえてきた。

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 若い男だ―――紫乃と同程度の。少なくとも身なりや体つきはそう思えたが、無表情から漂うふてぶてしさを勘案すると、全体的な印象もやや修正を迫られる。彼はバスを待つためにベンチに座っている大学生といったような風体で、机上で軽く組んだ自分の指を見るでもなく、ただそこでじっとしていた。それこそ、バスを待つように。

 彼は、パーソナル・スペースへと踏み込んでくる人の気配に反応し、目蓋と目線を上げた。どこかくすんだ黒色をした髪、その影から現れた、より黒ずんだ大きな瞳―――それは本当に、到着すべき時刻に到着すべきバスが到着したことを受け入れた空気感で、事実として彼は、大人数の参上に気張るでも委縮するでもない。陣内と自然に目を合わせ、互いに淡々と口を利いた。まずは、陣内から。

 オレンジがかった照明のせいか、薄笑いにめくれた口角から覗く陣内の乱杭歯が、いやらしく黄ばんでいるような気がした。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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