なんとなく一同が呆気に取られていると、陣内が慣れた様子で座席を采配し、彼自身もセンセとやらの隣の席に着く。長方形のテーブルは八人掛けで、男ふたりとテーブルを挟んだ向かい側の一列四人個別席へと、女性陣が自然に流れた。壁際の奥から詰めて座っていったので、最後尾にいた紫乃は、通路側すみっこにお邪魔させてもらうかたちとなる。
華蘭つながりで縁でもあるのか、紫乃以外の女性三人が、妙に打ち解けた感じで密やかに囁きあうのが聞こえてきた。
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「え? センセ? センセって、例の?」
「陣内さんセンセってしか言ってくれてないし。先生って学校の? まさか弁護士?」
「作家? 画家? 医者? あと、なんかあったっけ」
(ってことは、あの人が浅木さんなのかなぁ?)
会話に参加するでもなく、紫乃はそれとなく男ふたりを観察した。
陣内と彼は並んで座っているが、ただそれだけだ。陣内はさっそく女性側に話を撒いてくるものの、その左隣にいる彼はと言うと、それに便乗するでもない。そこにいる。だけ。
(同僚兼趣味友って言ってたっけ。ってか、葦呼って趣味あったんだ)
何気に失礼なことを考えているような気もしたが、葦呼とそういった話を共有したことがないのだから仕方ない。彼女とは高校の時以来の付き合いだが、高校一年生の初頭にクラスで席が近かっただけで面倒見のいい気性のまま友情を育んでくれた華蘭と、高校三年生の終盤に受験勉強が縁で親しくなった葦呼とでは、付き合いのタイプが違うのだ。どちらかというと、活発で奔放な爆発力のある華蘭に葦呼と紫乃が連れ立っていく構図が多く、その場合は当然華蘭の話がメインになる。葦呼と紫乃だけで逢うのは、華蘭が急用で欠席した時が大半かもしれない……まあ逢えば逢っただけ、仕事や家の近況とかを話すのだけれど。そう言えば、趣味について言及したことなど無かった。
(学校始まって以来の天才の趣味なんて、見当もつかないなぁ。実験? 研究? 意外にパッチワークとか? で
も、そしたら趣味友の浅木さんも、そういうことしてるのになっちゃうし)
そこで陣内から誕生日を聞かれて、答えた拍子に物思いは途切れた。
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