「んじゃ、女の子そろったんで入りましょっか」
それぞれに甲高い声を上げる彼女らの先頭へと、陣内が進んだ。そこまでついていく勇気がなくて、紫乃は途中で歩くのを遅らせた。自然と、陣内・モデル三人組・自分の順に入店することになる。まるで合コンのカーストにおけるポジションを暗示しているかのようで、嘆息に涙が混じりそうになった。涙そのものは、先を行く女性らの香水だかヘアスプレーだか服の柔軟剤だかごちゃまぜになって嗅ぎ分けられない残り香に鼻先を打たれたせいだとしても、心細いのそのものは真実だ。
(とりあえず、わたしなんか切り捨てちゃうような人が陣内さんじゃなくって助かったけど。浅木さんって人も、こうだといいなぁ。出来たら、葦呼の話とかで、ご一緒してくれないかなぁ……)
えらく他力本願な話だが、自分は今のところ群れる仲間がいないのだから、それくらいの夢を見たって許されるだろう。折角、奇跡を願ったら叶えてくれる妖精が一匹くらい潜んでいそうな店内にいるのだし―――
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紫乃は、脱いだコートを腕にまとめつつ、こっそり視線を巡らせた。ちょっと好みの、西欧古民家を思わせる内装だった。研磨し過ぎていない木目に彩られた床に、それのきょうだいから造作したような木製のテーブルと椅子。個別のランチョンマットには、お手製らしい刺繍が施されている―――梁が丸出しの天井から下がったランタンから差した抑え目の橙灯が、それを陰影でそれとなく知らせてくれていた。十人半ばの客とその半数ほどのスタッフは、品のある喧騒で晩餐を楽しむ手管を心得ているようで、ささやかなテーブルマナーの音をバックサウンドに、お互いをもてなしている……と言っても、箸で突き刺したウインナーを風車のように高々と掲げた子どももいた。祖母らしき女性から、優しく窘められて笑っている。いい雰囲気だった。
それらを抜けて、奥まったところに存在した、静謐のテーブル。そこにひとりぽつんと、彼は座っていた。
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