またしても、どぉでもいいことを話せってんで、やっぱり特に役立たない多国籍なカンジで話してみるぞ。なにから始めるかな……貯金箱とかでいくか。
貯金箱。俺がいたことがある国では、主に「 piggy bank 」って言う。
「 piggy 」は「子豚ちゃん」の意味で、実際、豚の形をした貯金箱が多い。これは、「 pygg(橙色の粘土) 」で作った壺なんかに小銭を「 bank 」していた風習があって、ある日「 pig 」と「 pygg 」を勘違いした陶芸職人がいたのが原点だって言われてる。「貯金する用に、 pygg(オレンジ粘土) の箱を作ってくれ」「え? pig(豚) の箱――― piggy bank っすか!?」ってな勘違いから、豚のナリした貯金箱を作ってしまったとさ、ちゃんちゃん、ってな具合だ。
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まあ、説としては、韓国らへんでは「豚」の「トン」が「おかね」の「トン」と同じ韻を踏んでるから縁起がいいぜってのもあるし、単純に豚が多産なことにあやかりたいってのもある。豚そのものが資産だから、貨幣という資産を貯めておく箱のモチーフとして豚を採用したってのもある。とんとんうまくいくって日本語もあるし。聖アントニウスの豚の逸話なんかも、由来としては有名どころだろな。
あ。あんまりメジャーじゃないけど、「 piggy bank 」以外にも、「 a rainy day bank 」で貯金箱っつう場合もあったりする。これを佐藤に話したら、あいつは「雨降ってて銀行まで出かけたくない時に一時的に預けとく箱って意味でもいーよねー」とか言ってたが……こいつの冗談を真に受けて憶えるもんじゃないぞ。「 a rainy day 」は「万が一の」って意味だ。つまり、「 a rainy day bank 」は「いざって時の貯蓄」。向こうじゃ、予想外の雨は、出くわしたくないアクシデントってことだな。
日本じゃ、雨は、そうとも言い難い。アクシデントはアクシデントかもしれないが、とりあえず雨を大切にしてる。雨を表現する言葉の多さが、それを裏付けてる。ちょっと思いつくだけでも、「五月雨(さみだれ)」「時雨(しぐれ)」「夕立(ゆうだち)」「通り雨」「にわか雨」「慈雨(じう)」「氷雨(ひさめ)」「大雨」「小雨(こさめ)」「霧雨(きりさめ)」「長雨」「雷雨(らいう)」「梅雨(つゆ)」―――いや、梅雨は降らんけれども。とにかく、続々とエトセトラ。
向こうじゃ雨は、ピンからキリまで「 rain 」。雨の形状や持続時間や季節との兼ね合いはアウトオブ眼中。すごいだろ。これ、とんでもねー温度差だと思わないか?
人間、大切なものについてはよく考えるから、大切なものについての言葉はぞくぞく増えるんだよ。真逆に、アンタッチャブルなものについては、『噂をすれば影』ってのを恐れるあまり、言葉その物をなくしてしまうことさえあるんだ。ロシア語の『熊』なんかは、その典型。タブーし過ぎた結果、ハチミツ喰らい( Медведь )って暗喩が、いつしか熊そのモノに連結しちまった。代名詞が名詞を食っちまったのさ。こうなったら、どっちとしての意味があるんだか無いんだかなあ。まあいけどよ。
ってなわけで、一見すると無関係っぽい貯金箱が、国をまたいで考えた途端に豚・雨・熊って繋がってみたりするんだよな。興味があるなら、ほかにも調べてみてくれ。そんじゃ、今回はこんなところで。
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