「あたし次せんせーね! 失礼しまーす♪」
「あ! ゆっきー! 割り込みすんなよー!」
「るっさいっつのー。ハイせんせー。ゆっきーこと小杉由紀那、ゆっきーなでーす! よろしゅ」
「はい。これはどうも。よろしくお願いします。にしても皆さん、なんだか今日は賑やかでポップな方が多いようで」
「意外っすかー? てーか、せんせーこそマジ意外なんですけどー。お医者サマってエッライえらそーなカンジないし。あ。親しみやすーい、って意味でね。なんてーの? 予備校のせんせーっぽい。めっちゃ声響くし。指とか爪も細長くって、浮いてる血管とか、チョークで黒板とか教科書とか差してんのメッチャ似合いそー―――」
あっちの端は、女性らがえらい熱の上げようだった。そして、こちらはと言うと、正反対だった。目の前の男性が、骨子が不明瞭だが自慢話であることは間違いない、じっとりとした能書きを垂れ続けている。
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「―――ホントさあ。今の政治に思うとこあるよね。どーせ年金だって、今の腐れジジババ共に吸い取られて終わりだし。やっぱ時代はFXとかその辺だと思うわけ―――」
語り口は陰気なくせにハイトーンな声色も、相手が無遠慮に向かい側からこちらへ寄せてくるブランデーグラスも、その袖口から垣間見える剛毛も、己の許容範囲ではなかった。それでも、誰かに頷き続ける役目が保障された今の状況に依存した方が楽になれるかもしれないと、紫乃がなけなしの自重を捨てて隷属の身分へ安住しかけた刹那。
その時だったのだ。不穏なひと声が、空気を射たのは。
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