(え? え? 直前で入れ替わったの? そんな。だったら葦呼も教えてくれそうなもんだけど。どういうこと? 身体の調子でも―――)
そのうち、自己紹介の順番が回ってきていたことをわき腹から小突かれ、我に返る。
隣席の子に促されるまま、
「坂田です」
と名乗ってから、……しばし。
妙な沈黙が場を満たしていることに気付いて、紫乃ははっとした。そう言えば他の女の子は、名前のあとに、職業やら最近のマイブームやら、あとで何らかの話題へ波及するようなエッセンスを、ひと言ふた言くっつけていた―――考えにふけるあまり、前後不覚となってしまっていた。これからなにか言おうにも、人材派遣会社のOLなんて話題性に欠けるにも程があろうし、マイブームだって最近はこれといったものは無い。そして、そういった真実をたちどころに取り繕う小利口とボキャブラリこそ、自分には存在しない。
「―――ね? ほんっとに、ほっとけない可愛さあるっしょー? 坂田さんって」
勘付いたらしい陣内が、にこやかなアドリブでフォローしてくれるのを、情けなく受け入れて。紫乃は、自分の存在がまたひとつ卑小に縮こまるのを感じた。
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(やっぱり、来なきゃよかったかもな……)
話しかけてもらえなければ、喋ることが出来ない。
誰かに加えてもらえなければ、みんなに入っていくことが出来ない。
孤独感と劣等感に胸はいっぱいだったけれど、喋ることが出来ない尤(もっとも)もらしい理由が欲しくて、紫乃は無理矢理ビールで口を満たした。飲み込んで、食事した。ポテトフライの味なんてどうでもよかったけれど、可能な限りの回数を咀嚼する。その行為に費やすという名目を掲げれば与えられる時間こそ、ある種の猶予として彼女は欲していた。
合コンは、和気藹々(わきあいあい)と繰り広げられていく。
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