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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. 閉会の時間となり、麻祈はテーブル会計のために店員を呼んだ。いつものように飲食量に準じて折半する。あとは解散と、シャツと抄録集を携えて、席から腰を浮かせかけた麻祈だが。

 疲労によって人間的な様相の絶滅が危ぶまれる店員が、クマをこさえた目元をしょぼしょぼさせながら尋ねてきた。

「お持ち帰り容器は、何個ほど必要でしょうか?」

「これ全部入る分」

 よく分かっていない麻祈を追い越して、佐藤が挙手しながら返答をした。当てられる前に答えるなら挙手はいらんだろうとツッコむ選択も検討したのだが、とりあえず双眸に疑問を燈しながら彼女を眺めておく。

 承知しましたとUターンしていく店員を見送ってから、佐藤が答えてきた。

.

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. 麻祈は、佐藤から少しでも距離をとるべく後ろへと躄(いざ)っていた。その物音も、確かに立ったのだが。彼女は、麻祈のうわ言を聞き逃さなかった。更には、怖気づかなかった。

「はあ? あんた麻祈でしょ。なら見るよ」

「だ、から。そんなの、―――」

「んげ。本気でどうかなった? どうもしてないって言い張るんなら、それを自覚して誤魔化すしかないくらい、どうかしちゃうよーな熱でもあんの?」

「ぅあ」

 額へと伸びてきた彼女の手から、上体を屈めて逃げる。追ってきた。逃げ切れない。その指先を払いのける。

 佐藤のそれと衝突させてしまった己の片手を、もう一方の手で胸倉に抱きこんで。麻祈は絶句した。喘ぐ。

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「あ―――さき。なんて、」

 とにかく。とにかく。ただひたすらに。

 小さく喚(わめ)いていた。自分でも分かるほど不恰好な、みっともない震え声で。遮二無二に。

 しょうがなかった。しょうがないじゃないか。そう思う。そうじゃないか。知らない、見えない、なんの先手も及ばない中を、死に物狂いで逃げ惑っているのだから。どれだけ震えていたところで、格好悪かったところで、みっともなかったところで、それをどうにも出来ないならそれを曝(さら)すしかないなんて在り得る筈も無いんだから駄

「目だ。駄目だ。駄目それは駄」

 目だ駄目だ駄目だ駄目だそんなのが俺じゃ駄目だから駄

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. 腰に結わえたキーチェーンがベルトの金具を打ち鳴らし、がしゃりと高鳴った。待て。声高なそれが、警告音だとしたら? 構うものか。佐藤には全裸だって見られたことがある。あれは故意でなく、不慮の事故だったが……

 そして。下着のタンクトップ一枚の上背となった麻祈は、佐藤へと胸を張った。

「どぉだ?」

 居直って、腕組みする。そうすると、あの時は手で覆い隠していた右上腕の裏に巣食う引き攣れが、一層に露わになった。佐藤なら、ひと目で見抜いたろう―――それが、全層植皮術の典型的な失敗例であること程度。そしてそれ以外の、麻祈の上半身に散見できる傷痕が、不慮の事故ゆえ脳に引き起こされた幻影ではなかったことも。

 向こうの座敷席とは違い、この椅子席には個々に垂れ幕がかかっているので、男ひとりが突然ストリップをしたところで注目を浴びることもない。何事もなく数秒が過ぎる。

 そして佐藤が、口唇を蠢かせた。こともなげに。ひどく疑わしい口調、それに駆られるままに。

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「とりあえず、消化管から冷やして肺まで焼こう。ロックいくかロック」

「暑いなら、その長袖まくれば?」

 佐藤が、麻祈のそれを指差した。

 麻祈は片手をオカマラインにして頬へ添えたいつもの道化姿で、やはり哄笑しながら、彼女を常套句にてあしらった。

「おほほほほ。嫌だわオネエサマ。嫁入り前の乙女に素肌をさらしなさいなんて、はしたないコト勧めるもんじゃござぁませんわよ?」

「あんたね」

 ぴしゃりと。

 こめかみを強烈に引っぱたくような叱咤を、佐藤がくれてきた。

「さっきもそうだけど。どーせ明日からもずっとキングるんだから、あたししかいないこんな時までキングらなくたっていーじゃんよ。いくらなんでも食傷だっつの」

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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