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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「ウチの病院。地下にシャワー室があるんだ。職員共用の、当直や夜勤の人が使うのが。手続きと後始末さえするんなら、いつ誰が使ってもいーやつ」

 と、葦呼は思い出すように、一拍を置いた。目線を虚空に振ったのだろう……なんとなく、そんな気がする。

 それだけのリアクションで済ませるには、途方も無い展開だったが。

「あいつ、初めて使ってみてパニクったのかなんなのか知んないけど。とにかく。スッポンポンでそこのドア際にへたりこんでるのにバッタリ出くわしたことがあんの。あたし」

「は!?」

「野郎、ほんと湿度と熱気の合わせ技に耐性ないわー。まあ、しゃーないから診たんだけど」

 すっぽんぽんという単語を、スッポン(亀)を肩に担いで鼓(つづみ)を打つ小童の姿で紛らわせようと足掻いている紫乃を放置して、葦呼が続けた。

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「―――きっと、麻祈さんだから、わたしが追いつこうとしてることに気付いてくれんだろうなって思えるからさ」

「いや気付くとは思うよ。あいつキングだし。でも、縦(よ)しんば気付かれでもしたら、もう紫乃は、追いつけないでいられないでしょ? 頑張り続けるしかないよ?」

「うん」

「だったら、」

「うん」

「だから、」

「うん」

「……そんでも、ずっと追いかけんの?」

「うん。わたし、頑張ることは出来るから」

 そして、これだって断片にすぎないのだろうが。紫乃は余計なことをまで言ってしまっていた。

「それにね、きっと、それは大変だけど―――……辛くはないんじゃないかな。麻祈さんは、きっとわたしに気付いたら、それとなく待っててくれる気がする。ひとりで行けるのに、行ったところで構わないのに、ついてこようとしてるわたしを待っていてくれるんだろうなって。それを疑えないんだよね」

 言っているうちに気恥ずかしさが勝り、紫乃は語尾を濁らせた。そうすると、気付かざるを得ない……葦呼が口を噤んでしまったのも、あまりの馬鹿馬鹿しさに付き合い切れなくなってのことではなく、もっと神妙な部分から物事を考えたせいだろうと―――そう思えた。今は。

 その予想を裏切らない静まり返った声音で、葦呼が告げてくる。

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「あいつ、真性の食道楽なんだよ。味にうっさいからこそ、普段の摂食はエネルギー補給って割り切って、味覚を断って摂取してるだけ。ツウ気取りですらないから、摂取せずに済む場面では、気に入らなくてもゴネゴネ薀蓄垂れたりせず、とにかく残す。あいつと外食したら、その残飯くすねてるだけで腹一杯になるもん。見たことない? あの食い残し連峰」

「ええと。見た」

「でしょ。数学もそう。道楽のままにしておけば、好きなものを好きな時に好きなように愛でることができる。金銭やら面目やら責任やらが絡んでくる職業としてメシのタネにすると、そうできない。よって、億千万に届くかもしれないサラリーを棒に振った。これを真性の道楽者とせず、なにを道楽者と言うか」

 不謹慎にも程があると言わんばかりに呆れ返って、更にだらだらと補足してきた。

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.   きょとんとしたように間を開けて―――その間、やはりきょとんとしていたのか、急に葦呼が素っ頓狂に叫ぶ。

「え? すんのそれ? めっちゃ大変だよ」

「大変だけど。頑張ることは出来るもの」

「言ったじゃん。あいつ子どもの頃から父親とふたり暮らしで、誰よりも炊事洗濯家事親父の達人なんだって。自分のことは自分でするのが的確で適当でだからこそ早いって思い知ってるだろうし、実際その通りで手際よくさっさとやれちゃうもんだから、紫乃が今から追いつこうとしても大変だって」

「大変だよね」

「ええとね。ほんと大変だって。コレあたしの推測混じるけど。あいつの趣味、数学だって言ったよね」

 話の切り口は、また突拍子ない切断面をしていると思えたが、とりあえず紫乃は頷いた。

「うん」

「趣味が高じて数学者にならなかったのは、なんでか予想つく?」

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「あのさ。もう甘えついでに訊いちゃうけど。麻祈さんって、その……嫌いなのかな。そういうの」

「どういうの?」

「その……オンナ濃度っていうか」

「パンチラ?」

「じゃなくて!」

「だよね。嫌いな奴いないよね。知らんけど」

「それでもなくて! ……オンナ攻め。料理してもらうのとか」

「うーーーーーーーん」

 盛大にうめいてから、葦呼が呟いた。

「自分の好き嫌いより、それこそ面倒臭いかどうかってのが重要なんじゃないかなあ。あいつキングだから」

「どういうこと?」

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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