. その余裕からか、彼の優しさにつけ込んでいるようで今更に居心地が悪くなった紫乃は、途端に歯切れ悪くなるのを感じながらも、どうにか最後にそれを言葉にした。
「おやすみなさい。さよなら」
「ありがとうございました。さようなら。おやすみなさい」
 そう口にしたのに、彼は電話を切らなかった。紫乃がそうするのを待ってくれている……いつだってそうだったから、今だって。
 紫乃は電話を切った。そしてそのまま、携帯電話の電源を落とした。今日はもう、誰とも話をしたくなかった。このまま電気を消して眠ろうと思う。目の腫れ具合を最小にするには、顔を洗うか濡れタオルで冷やすかした方がいいのに決まっていると、分かり切ってはいたけれど。
 思う。
.                                                                    
                                            
                                                                            
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