「余地……とは、なんですか?」
まさか小娘が食いついてくるとは、露とも思っていなかったらしい。社長は驚いたように目を見開いてから、それ以上に目蓋を下ろした。そうして、半眼の裏で叡智を探しながら、
「物事を正当化するための後付けの嘘―――言い訳、それを ねじ込める、破れ目だ」
結局口にした答えは、彼らしく、のどかに朴訥としていた。
「確かに、正しいことをするのが、いいことをするのとは異なる場合もある。それでも、いけないことはいけないし、悪いことは悪いんだ。そこに理屈をつける余地があると、ああだからこうしたんだと、屁理屈を整える。その回路が整うと、その人は何回同じ状況になっても同じ屁理屈を繰り返す。リピートされるうちに周囲もそれが屁理屈でしかないことに気付いて、言い訳に終始するのを恥ずかしい姿だと思いはするが、大抵は指摘しない。恥をかいているのはその人であって自分でないから、波風を立てずに過ごそうとしてしまうんだ。そして、その人は恥をさらすだけじゃなく、いずれ恥知らずと言われるようになってしまう。指摘しなかった、大勢の恥知らずたちからね」
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