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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「社長」

「うん?」

「もしかして、上野さんに、こう言ったんですか? ―――」

 紫乃は、確信をもって“代弁した”。

「今のあなたは、その人に、言うべき言葉があるのを知っているでしょう?」

 ひとつ。ふたつ。呼吸を数えるごとに、みるみると仰天した顔つきを露わにして、社長が喉を鳴らした。

「こりゃ驚いたよ。ご名答とは……いや、一文字違わずではないが。凄いな」

 大きく息をついて、どこか上目遣いで紫乃を覗き込みながら、問いが続く。

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「余地……とは、なんですか?」

 まさか小娘が食いついてくるとは、露とも思っていなかったらしい。社長は驚いたように目を見開いてから、それ以上に目蓋を下ろした。そうして、半眼の裏で叡智を探しながら、

「物事を正当化するための後付けの嘘―――言い訳、それを ねじ込める、破れ目だ」

 結局口にした答えは、彼らしく、のどかに朴訥としていた。

「確かに、正しいことをするのが、いいことをするのとは異なる場合もある。それでも、いけないことはいけないし、悪いことは悪いんだ。そこに理屈をつける余地があると、ああだからこうしたんだと、屁理屈を整える。その回路が整うと、その人は何回同じ状況になっても同じ屁理屈を繰り返す。リピートされるうちに周囲もそれが屁理屈でしかないことに気付いて、言い訳に終始するのを恥ずかしい姿だと思いはするが、大抵は指摘しない。恥をかいているのはその人であって自分でないから、波風を立てずに過ごそうとしてしまうんだ。そして、その人は恥をさらすだけじゃなく、いずれ恥知らずと言われるようになってしまう。指摘しなかった、大勢の恥知らずたちからね」

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「気持ちの良い挨拶をする。誰にでも笑顔で接する。人を思いやる。今まで通りのそれに、今回のことで、どうか怯えないでいてくれないか。それが君であり、正しいことはそれだと思うから。ただ―――」

 ふと、社長の顔の色が煤(すす)けた。苦味ばしったそれは、あっという間に微苦笑にすり替わってしまったので、本質がなんだったのか、もう分からない。その表情を知らなければ、続けられたせりふのことを、耄碌に差し掛かった老人の繰り言だと思うことも出来たのだろうが。

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「あの時、君は、意識不明の人がいたから救急車に助けを求めようとしたそうだね。それは正しい。間違っていたのは、君への、上野君の当てつけだ。それは病気のせいかもしれないが、当てつけられたことそのものは残るし、君がそうやって傷つけられたのには変わりない―――だからこそ、傷を負ったからと、臆病風に吹かれたままにならないで欲しい。坂田君は、坂田君らしくしていて欲しいんだ」

「わたし、らしく?」

「そうだ」

 答えあぐねている紫乃を、社長が鷹揚な首肯でもって保障してくる。

「わたしはね。採用面接した時から、坂田君らしさを、とても重宝しているんだよ」

「ええと……わたし、なにかしましたでしょうか?」

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「あれは、わたしだって悪いんです。もっと上手くやることだって、きっと出来た筈なんです。それなのに、―――とにかく、上野さんを免職したりなんてことだけは……!」

「なんか勘違いしとるようだが」

 と、社長はつぶらな目をぱちくりさせて、

「今言ったのは大家の苦情だ。わたしの意見ではないよ」

「え?」

「それで、上野君に連絡を取った。そして、営業課長を含めて面接した。そこで、会社を休んだのは体調不良ももちろんだが、君に申し訳ないことをして逃げたかったからだと言われてね。そこでやっと、事情が呑み込めたんだ」

 その時の光景を思い出したのだろう。渋面の社長が、心痛を紛らわすいつもの癖で、片耳をさすった。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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