「なに? そっちこそそれ、戯言でも寝言でも厭味でもないの? 謙遜ですら?」
「は?」
「どう考えたってモテるでしょ段先生。実際、佐藤先生と付き合ってるって公言なさるまでは、同科のわたしを経由してまで色恋系の探り入れようってしてくる子だっていたんですよ? カワイいのに呼び止められて期待に胸と小鼻膨らませてたら、ちょっと気になるんですけど段先生のことが……って切り出される切なさ、知んないでしょ」
「あけっぴろな奴より、だんまりな奴の方が詮索し甲斐があるだけのことに、なにを盛り上がっているんですか? 後ろ暗い楽しみだからこそ、わたしに直接訊きに来ないんでしょう。今の噂話と同じです。どいつもこいつも、いい歳しておいて、頑是無い」
刺してくる毒虫なら叩こうとの決心もつくが、飛び回るだけのそれを払うのに躍起になるのは愚行だ。行いが愚かなだけならまだしも、その愚行こそ見物しようという物見客や、物見客に釣られた野次馬まで引き寄せてしまっては本末転倒だ。だから放置している。傍観者は傍観し終えれば去っていくのだから、それを待ってさえいればいい。ルーティンだ。
麻祈は、忌々しく舌打ちしかけた舌頭を、口蓋に押し付けてやり過ごした。それだって、やり慣れたことだ。
と。
「前にあった、職員懇親のための、ドクターからParamedic(コ・メディカル)まで参加したバーベキュー大会。覚えてます? 段先生、最後らへん、参加してましたでしょ?」
「……はい。タダ酒に釣られて」
脈絡ないが、言われれば思い出す。
[0回]