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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「じゃあ逆に、モテない根拠を教えてちょー」

「ちょ?」

「反面教師に頑張るからさぁ」

「はあ」

 と安請け合いしたところで、どこから手をつけたものか、判断しようがない。麻祈は譲歩を願い出た。

「でしたら、俺がモテるという根拠を教えて戴けますか?」

「ガッテンちゅー」

「ちゅ?」

「いいからいいから」

 そして橋元は、無気力なのか気楽なのか両方とも混在しているからそんなにもタダ漏れなのか、とにかく瞳の光と声を間延びさせて、こちらを宥めすかすように両手をぺらぺら翳してみせる。

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「佐藤先生がいなかったから、遠慮無しに話しかけられたり、料理盛られたり、酒注がれたりしてたじゃん。そうしてきたみんな、結婚してない女の子ばっかりだったこと、知らないの?」

「知るはずありませんでしょう。既婚・未婚のワッペンでもついてましたか?」

「いや。ワッペンはさすがに。でも、なんてーか。顔に書いてあったっしょ?」

「あったかもしれませんね。だとしても俺、極東産の扁平な顔で厚化粧されると、カンバスに油絵描いてある並みに原型が分からなくなるんですよ。年齢からして。ちんぷんかんぷん」

 化粧どうたらから小杉のことを連想して、そういえば何歳かすら尋ねていなかったことを思い出す。そんな仲に発展していなかったどうこうでなく、興味を持っていなかった。聞いたところで実感が湧かないからだ。もとより、正面切って女性に尋ねてよい質問でもないのだろうし。

 兎にも角にも、麻祈は抗弁を続行した。

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「なに? そっちこそそれ、戯言でも寝言でも厭味でもないの? 謙遜ですら?」

「は?」

「どう考えたってモテるでしょ段先生。実際、佐藤先生と付き合ってるって公言なさるまでは、同科のわたしを経由してまで色恋系の探り入れようってしてくる子だっていたんですよ? カワイいのに呼び止められて期待に胸と小鼻膨らませてたら、ちょっと気になるんですけど段先生のことが……って切り出される切なさ、知んないでしょ」

「あけっぴろな奴より、だんまりな奴の方が詮索し甲斐があるだけのことに、なにを盛り上がっているんですか? 後ろ暗い楽しみだからこそ、わたしに直接訊きに来ないんでしょう。今の噂話と同じです。どいつもこいつも、いい歳しておいて、頑是無い」

 刺してくる毒虫なら叩こうとの決心もつくが、飛び回るだけのそれを払うのに躍起になるのは愚行だ。行いが愚かなだけならまだしも、その愚行こそ見物しようという物見客や、物見客に釣られた野次馬まで引き寄せてしまっては本末転倒だ。だから放置している。傍観者は傍観し終えれば去っていくのだから、それを待ってさえいればいい。ルーティンだ。

 麻祈は、忌々しく舌打ちしかけた舌頭を、口蓋に押し付けてやり過ごした。それだって、やり慣れたことだ。

 と。

「前にあった、職員懇親のための、ドクターからParamedic(コ・メディカル)まで参加したバーベキュー大会。覚えてます? 段先生、最後らへん、参加してましたでしょ?」

「……はい。タダ酒に釣られて」

 脈絡ないが、言われれば思い出す。

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「段先生って実際のところ、佐藤先生と、どこらへんの仲なんですか?」

「どこらへん、と訊かれても」

「お付き合いに、ちゃんとお礼言ったりプレゼント贈ったりしてる? じゃないと、いくらなんでも報われないでしょ。モテ男は火種なんだから、今回みたく、火消し手伝わされるばっかじゃさー」

「男?」

 ぱた、と麻祈は歩を止めた。

 さすがに、正気を疑わざるを得ない。怪訝に、橋元へと振り返る。

「……佐藤は女ですが」

「は?」

 そんな橋元こそ、訝し気な表情をもろとも吹っ飛ばす、素っ頓狂な声を上げた。

「いや、佐藤先生も悪い方じゃないけど。性格さばさばしてるし、ちゃきちゃき仕事こなしてくれるし。ってか、そうじゃなくて。君がモテモテでしょ。それより、もーちょっとピンクな意味で」

「わたし? どこが」

「またまたぁ」

 と、橋元は己の顔の横らへんで、片手をぱたつかせつつ、

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「ええ。最短で噂の信憑性を自壊させ、誰しもの興味を収束させる方法ですよ。みんなエンターテインメントを楽しみたいだけで、本当の意味では噂の真実なんてどうでもいいってことを、彼女は良く知っているんです。こういう手合いは、さっさと膨らませて勝手に破裂させるに限るってね―――欲しがるんだから飽きるまで与えりゃ黙るのも早かろうって戦法です。対する段先生ときたら、」

 途端、橋元は戸惑う麻祈へと、引っ込めていた掌を向けた。が、今度は、脊梁にアタックしようとしてのそれではない。拳から一本指を立てて、そのかさついた先端を、こちらに向ける。

「流れている噂はエンタメと傍観できるのに、エンタメに興じる群衆から別個ひとりひとり向き合うとなると、いてもたってもいられなくなる生真面目さだ。だからそうやって無意識に、外部とのチャンネルを切っている。それでも、わたしのように無理矢理アクセスしてくる奴へは相手をするんだから、本当に生真面目というか」

「そんな。わたしはただ―――」

 咄嗟に、麻祈は言い返していた。確かにさっきまでは、誰彼のせりふを日本語と捉えず、個数としてカウントしていた。それは事実だが。それはただ―――

「めんどくさい。だけですから」

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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