「ええ。最短で噂の信憑性を自壊させ、誰しもの興味を収束させる方法ですよ。みんなエンターテインメントを楽しみたいだけで、本当の意味では噂の真実なんてどうでもいいってことを、彼女は良く知っているんです。こういう手合いは、さっさと膨らませて勝手に破裂させるに限るってね―――欲しがるんだから飽きるまで与えりゃ黙るのも早かろうって戦法です。対する段先生ときたら、」
途端、橋元は戸惑う麻祈へと、引っ込めていた掌を向けた。が、今度は、脊梁にアタックしようとしてのそれではない。拳から一本指を立てて、そのかさついた先端を、こちらに向ける。
「流れている噂はエンタメと傍観できるのに、エンタメに興じる群衆から別個ひとりひとり向き合うとなると、いてもたってもいられなくなる生真面目さだ。だからそうやって無意識に、外部とのチャンネルを切っている。それでも、わたしのように無理矢理アクセスしてくる奴へは相手をするんだから、本当に生真面目というか」
「そんな。わたしはただ―――」
咄嗟に、麻祈は言い返していた。確かにさっきまでは、誰彼のせりふを日本語と捉えず、個数としてカウントしていた。それは事実だが。それはただ―――
「めんどくさい。だけですから」
買いかぶってくれる橋元に後ろめたく、PHSを白衣のポケットに押し込みながら、麻祈はげんなりと自白した。
その後ろめたさとげんなり感には、この会話を中座したい雰囲気もふんだんに織り込んだつもりだったのだが、橋元はそれを弱輩なりの謙虚な気兼ねとでも解釈したらしい。先輩らしいずけずけとした態度で、とぼとぼと歩き出した麻祈についてくる。だけでなく、問うてきた。
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