.激怒に任せて、呼び出しを切ったPHSを床に投げつける。のだが、PHSはネックストラップで首と連結されているので、どこかにぶつかって破損するということも起こらない。びよんと勢いよく麻祈の腹の前でスイングし、アトランダムなブランコを繰り返しては、行き場のない八つ当たりがぐるぐる吹きだまる状態を具象化していく。くるくる。狂々り。
獣声が戦慄いていく。
「俺の駄法螺(line)は吹聴しとき(shot)ながら俺からの直通(line)はシカトする(shoot)たぁどーいった爆走だ『あの極悪クソ不良女(the most beastly chavette!)』!」
「あっはっはっはっは!」
それはもうあけすけな大笑いに、無礼を忘れた目付きのまま背後の橋元を振り返る。
橋元は、真顔だった。麻祈の面貌を見てからも、―――おそらくは、見る前からもだ。
鼻白んで、言葉を失くす。その隙に、橋元に口火を切られてしまった。
「今ので分かった。佐藤先生はどこまでも噂に対して真面目で、段先生はどこまでも噂以外に対して生真面目すぎるんですね。うん」
「どーいう意味ですか?」
「わたしの質問はモノホンのセクハラで、佐藤先生に訴えられてもおかしくない代物です」
やけくそで問い返すしかない麻祈の惨状に同情を覚えたから包み隠さず伝えることにしたのではなかろうが、橋元の言い様は額面通りで、顔の皺のひとすじすら喋るのに必要とする以外動かない。噂を味わう風でもなく、だからそこ楽しそうでもなく、ただ見解を明らかにしていく。
「それに彼女は平然と、モノホンのセクハラで、やりかえしてきました。てことは、わたしより不出来な名誉棄損にも、わたし以上に上出来なケチにも同様の対処をしてるんでしょう。即効性を第一とした場合、最も的確な逆療法を」
「そっ、こ?」
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