「段先生って実際のところ、佐藤先生と、どこらへんの仲なんですか?」
「どこらへん、と訊かれても」
「お付き合いに、ちゃんとお礼言ったりプレゼント贈ったりしてる? じゃないと、いくらなんでも報われないでしょ。モテ男は火種なんだから、今回みたく、火消し手伝わされるばっかじゃさー」
「男?」
ぱた、と麻祈は歩を止めた。
さすがに、正気を疑わざるを得ない。怪訝に、橋元へと振り返る。
「……佐藤は女ですが」
「は?」
そんな橋元こそ、訝し気な表情をもろとも吹っ飛ばす、素っ頓狂な声を上げた。
「いや、佐藤先生も悪い方じゃないけど。性格さばさばしてるし、ちゃきちゃき仕事こなしてくれるし。ってか、そうじゃなくて。君がモテモテでしょ。それより、もーちょっとピンクな意味で」
「わたし? どこが」
「またまたぁ」
と、橋元は己の顔の横らへんで、片手をぱたつかせつつ、
「先生に食われたいって子があちこちにスタンバってるの知ってて、そういうこと言います?」
「いい加減にして戴けませんでしょうか橋元先生。最低でも、戯言なら笑える出来で、寝言なら寝てから、直言なら厭味を抜きにストレートでいらしてください。こちらとしては、せめて理解する手間を省きたい」
辛抱たまらず、麻祈は本格的に橋元へ身体の正面を向けた。通路で対峙する姿勢を静止させた二名の医師に、通りすがった同輩が流し目を掠めさせて過ぎていく。こんな構図は、さほど珍しいものでもない―――議題こそ最先端のマクロ治療からアイドルユニットの解散報道まで多岐に渡るとはいえ、男同士の鞘当てなど、それこそちょんまげを結っていた時代からありふれた興行だ。
だが麻祈にとっては、橋元の反応はありふれたものではなかった。勝利を確信して喧嘩を買う不埒者の不遜もなく、その不遜を押し殺すことで妙味を増したアルカイク・スマイルを浮かべるでもなく、ただただ奇妙なものの目撃者として不思議がっている。首まで傾げた。双眸と眉宇の間をぼんやりと鈍角にして、目を正円近くまで見開いて。
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