「他の選択肢もあるでしょう。ここ、駅にも住宅街にも近いので、個人経営の居酒屋から大手チェーン店のファミリーレストランまで揃い踏みしてますよ。ピンキリに。キリはオススメしませんけど」
「しないですよ。普通」
「見どころとしては、後ろ向きにピンなんですけどねぇ。今日はどこまで堕ちてるんだろうと気に掛かかってポツポツ足を運んでるんですが、今のところ底が無くて。キリなのにキリがないのがまたもやもやして覗きたくなると言うか……」
「限りなく嫌な注目の的ですね。それ」
半眼になってうめく麻祈に、似たような波長で言い添える。
そのまま言及することなく、麻祈が矛先を変えた。
「バスで帰るんでしたら、駅前の方が都合がよろしいんじゃありませんか?」
「いいんですよ、そんなの。気にしないでください。わたし、帰ることよりも、今は食事の方が楽しみなんですから。頑張って歩けば、ここから自宅だって徒歩圏内だし」
「はあ。となると―――」
と。
気が付いて、紫乃は小首を傾げた。はずみで肩からずり落ちかけたカゴバッグを掛け直す。
「麻祈さん、なんだか急に楽しそうです」
「あれ。顔に出てましたか」
まるでタイミング悪くヘマを見られたといった風に、ばつが悪そうに麻祈が応える。しかし観念する切っ掛けにもなったらしく、思い当たるふしを白状してきた。
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