(わたし、なにしてるんだろ)
担ぎ直したカゴバック。それは、今日が特別な日になることを疑いもせず、服装に合わせて夏向きに選んだものだった。
アスファルトの張られた歩道を進んでいく爪先につっかけた、サンダルだってそうだ。ヘア・アレンジなんて突飛なこともできないまま、結局いつも通りに後ろ頭に留め直した髪飾りも、心意気だけはそうだった……と思う。
(結局、こうなっちゃうものなのかな)
きっと、このまま終わってしまうのだ。
斜め後ろあたり、付かず離れず紫乃と歩く麻祈を、意識だけで振り返る。彼はあれからじっと沈黙とため息を噛んで、世間話を振ろうともしなかった。先程そうして撹乱を試みて失敗した手前、もう思い出したくもないといった風である。常ならば、それすら覆い隠すような物腰を装えるのだろうが、余力が残されていないのだろう……真実、彼は困憊している。他者をもてなす外面が剝げかけて、取り乱してしまうほどに。
(―――……ちょい待ち)
ふと紫乃は、その違和感に気付いた。
(そうだ。考えてみたら、それは、ついさっきからじゃない)
ぞっとした感情のまま反射的に手を払う、その前から。
彼は美食にほだされて舌鼓を打ち、篠葉と嬉しげに英語混じりで笑い合っていた。素直に。心から。
であればなおさら、どれもこれも紫乃が見ることが出来たはずがないのだ。本来ならば。
(麻祈さんは合コンの時、お酒を今よりたくさん飲んでいたのに、ひと言だって英語なんか喋らなかった。目立ちたがり屋でもなかった。わたしと電話してた時だって、わたしや葦呼の話を盛り上げたりするばっかりで、自分のことなんて話題にしなかった……と、思う)
となると、なおのこと気にかかる―――車椅子の親子について。
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