「こわい。こわい? すいません。お尋ねしますが、その『こわい』は、『恐怖』という意味でしょうか。それとも『おそれおおい』との意味でしょうか?」
「どれとも違う、かも」
「うん?」
「相手でも、それ以外でもない。自分自身への自信のなさです」
それについてなら、いくらでも言葉が出る。
自嘲がこみ上げるとしても、それを可愛がるのは後回しでいい。今、できることをする。それが、頑張るということだと、今は思えた。
いつしか俯いてしまいながらも、紫乃は言葉を吐き出し続けた。
「余計なことをするなって怒鳴られるんじゃないか、それを誰かから笑われるんじゃないか、わたしなんかがそれをしなくてもいいじゃないか、だったら見て見ぬフリをするのが得策じゃないか……そう言う、逃げ場が用意されている、こわさです」
麻祈は、ぽつねんと物思いに耽ったようだった。
しばらくして、答えてくる。
「生まれ育った文化の違いでしょう」
「文化?」
「ええ。恥の文化と、罪の文化。坂田さんと俺の縮図です。恥の文化は集団の中での相対的な基準であって、罪の文化のような一神教に由来した絶対的な基準ではありません。このような乱暴な分類をすると誤謬も排しきれないでしょうけれど、俺がいた地域では主に罪の文化が―――」
「すいません」
淡々と続く解説に、紫乃は訴えた。
「教科書は、いつか時間を作って読みます。だから今は、麻祈さんの話を聞かせてください」
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