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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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.  中座を強いられたことを、彼は反発するでも厭うでもなかった。ただ呆然と納得に呑まれたようで、寝言を反芻するかのような不明瞭さで、言い直してくる。

「俺が。しない後悔より、したあとの後悔の方が、めんどうくさくない」

 麻祈の口調が、聞き取りづらい。どこかイントネーションがずれた、鼻に抜けるような声色になっていた。喋り方が、崩れているのだ……日本語のそれから、おそらくは、彼の母国語に。

「俺がなにかした。それが不愉快なら、相手は怒鳴り散らすなり、あるいはもっと合法的に裁判を起こすなりすればいい。けれど、わたしがなにもしなかったら、」

(わたし?)

 ふと顔を上げ、横に立つ麻祈を見る。

 通りすがりの乗用車が、彼の横顔を照ら出す。

「助けることができたんじゃないか、なにか役に立てたんじゃないか―――って。それを必ず絶対に、いつまでも身勝手な夢に見るから」

 言いながら、彼は薄らかに笑んでいた。

 傾いだ眉に、ゆるんだ口許。肩を落として吐息を洩らし、彼はその時確かに、やるせなくほほ笑んでいた。今更泣くまでもない揺るぎない絶望を前に、彼は涙の一粒さえ零さなかった。

 ヘッドライトもろともその数秒が過ぎ去っても、紫乃は身動きひとつ出来なかった。

 言葉が、独白から、告白に転じた瞬間も、どうすることもできない。

「ごめんなさい。本当、俺、身勝手です。身勝手ついでにお願いしますけど、今の話、忘れてくださいませんか?」

 どうすることもできないのなら、こたえることもできない。

「忘れていただけますよね?」

 こたえることもできないのなら、―――

 紫乃は項垂れて、無言を保った。

「ありがとうございます」

 首肯されたと勘違いしてくれたらしい。彼が、おざなりに呟いてくる。

 それが、自分の思い通りだったわけではない……彼を思い通りにするなんて、とんでもない。ただ、自分が都合良く考えるくらいには、彼もそうするかもしれないとは思っていた。そして、好都合なずるさを捨ててまで頼りにできる盤石の名案が、自分にはなかった。

 彼とて、おそらくは、そうだった。今度こそ麻祈は、バスが来るまでひと言も喋らなかった。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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