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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「エ? ア、」

 まるで彼も答えを見失っているかのように、ひくひくと呼吸の痙攣混じりにあえぎながら、視線を泳がせる。その眼差しの手探りが、己の手から、紫乃のそれを辿って―――

 途端に、さっと血の気を取り戻した。

「す、すみません」

 口走りながら、こちらを気遣って、手を伸ばそうとする。のだが、視界に自分の指が入った途端、愕然として腕まるごと引っ込めた。まるで汚点を隠そうとするかのように、腰の裏に二の腕まで回して、口早に告げてくる。

「俺のことは、別に構わなくていいですから。それより坂田さん、怪我とかしませんでした?」

「し、てません」

「ならよかった」

(よかったなんて言えた顔してない)

 街灯もまばらで、家並からも窓明かりが消えつつある路上。月明かりは遠く、星明かりになど期待するべくもない。だというのに、それが分かる―――分かってしまうほど、彼が追い詰められている。それまでも分かる。

 せりふまで、口先で上滑りして、よそよそしい。

「すみません。すみませんでした。ほんと。おっかしいなぁホント。見当識障害? たったの焼酎一杯で桃色ゾウさん(ピンク・エレファント)がお出ましなんて、いっくら疲れてるにしても、俺のくせして、どうしてしまったんだか。トシですかねぇ。はは。あはは」

 後ろ頭を掻く仕草も、そのから笑い以上に、空回りしている。

 それを、止められなかった。桃色ゾウさんって、なんですか? ―――そんな合いの手さえ舌に乗せる決心がつかなかった。その隙に、言われてしまった。

「帰りましょうか。そろそろ」

 逆らうべくもない。

「はい……」

「バスに乗るまで送らせてください」

 逆らうべくもない。またしても。

 とん、と肘まで落下したカゴバッグの重たさで、やっと現実感と実感の落差を体感した気がした。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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