「やだなに? もー。この子ったら。お母さん変なこと言ったみたいじゃない」
「変なこと……言ってないの……?」
「言ってないわよぅ。正直なことしか」
「それ……どういう……」
深追いしない方がいい気もしていたが、思わず食卓に前のめりになりつつ、半眼を歪めながら呻いてしまう。
対する母は、どこまでも気負いなく、頬杖なんかついてみせた。
「紫乃ってば。大事なものほど、こっそりひとり占めしないと気が済まない子だから」
「え?」
「小さい頃から、なんでもかんでも漱に横取りされてた反動かなぁ。自分だけのおやつとか新品のオモチャとか、こっそり自分の部屋に持ち帰るまで、そわそわ落ち着かなくて。それで、おやつのひと口目を食べるなり、おもちゃのパッケージを開けて眺めるなり、ひとしきり堪能してからじゃないと二階から降りてこないで」
「そんなの、小さい時のことじゃん!」
「そうでもないわよ。あんた今だって、漫画とか雑誌の新刊、ちゃんと目を通してからじゃないと居間に持って降りて来ないでしょ。柿ピーとか駄菓子は茶の間で食べるのに、コンビニでゲットした新作スイーツは部屋までお持ち帰りだし。ハズレだったら味見したやつ持ってすぐに降りて来るくせして、アタリだったら三十分は引きこもりコースで。お姉ちゃん、『どーせ食べ終わった包装紙とかスプーン眺めてニヤニヤしてんでしょ』って鼻で笑ってるわよ。毎度毎度」
「え? あ。う」
「え?」で言い返そうとしたけれど、「あ」で実話であると思い至り、「う」と抗弁を呑み込んだ。その隙に、母が言葉を継いでしまう。
「今回も、それとおんなじ。前までは、お風呂と夜ご飯済ませたら、すぐ部屋に行って電気消しちゃってたのに。最近は掌を返したみたく、一階でぶらぶらテレビみたりとかケータイのゲームつけたり消したりで、ちんたら時間潰し。だからお母さん、あらまぁ遠足の時と一緒だわーと」
「えんそく?」
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