.それを見返す紫乃が、反駁する機会を窺っているのを察したらしい。母は再度、説明に戻った。
「あとの証拠は……そうねぇ。また、みんなの前でも平気で携帯電話いじるようになったから」
「そんなの、別に普通のことじゃ―――」
「うん。普通。いつも、大体そうなの。大体いつも連絡くれるのは、いつもの人ばっかりだから。お母さんに見られても、お父さんに見られても、お姉ちゃんに見られても、ありきたり。そんなお友達からの連絡や、会社の人からの電話や、広告メール。その履歴を消したり整理したりするのを見られるのだって、ちっとも普通なのだらけ」
うんうんと頷く紫乃。
それを横目にした母が―――どうということもない、いつもの母が、したり顔もせずにさらっとトドメを刺してくるなんて思いもよらなかった。
「けど前はそれを、みんなのいないところで、するようになってた。だから―――ああ、そうすることが、紫乃にとって特別なことになったんだなって。履歴を眺めるのさえ楽しくて、誰にも邪魔されないで、部屋でひとり占めにしていたいんだなって。お母さんは思ったわけよ。それがぱたっとなくなったから、あーららフラれちゃったのねーって」
言われてみれば、思い当たる節しかない。
それが、ひどく理不尽にしか思えない。
紫乃は、呟いた。
「ずるい」
「はい?」
素っ頓狂に目を見開く母の様子に、そちらこそ理不尽だと指摘されたようで、それを否定せんがために紫乃はかなり立てた。身体でも地団駄を踏んだ。椅子の上でじたばたと、ただし服に皺が寄らないように。
「ずーるーいー! おーかーしーいー! わたし、お母さんのことなんて、そんな分かんないのにー!」
「そりゃあんた。伊達にお母さんしてないもの。あんたのことなんて、羊水の中を泳いでた親指サイズから見てるんだから。超音波写真で」
「じゃーなんでこないだスーパーで特売してたイチゴ蒸しパンの練乳がけ買ってきてくれなかったのー!? 好物だって知ってるくせしてー!」
「あんたって子は。まだ根に持ってたの? 同じ値段で、きゅうりの袋詰め放題にチャレンジした方が、夕飯に一品増えたんだからしょうがないでしょ。紫乃だって好きだからいいじゃない。きゅうりの塩昆布漬け」
「うー!」
口をつぐんだ紫乃に、母は吐息した。二回だ。
一回目は嘆息で、二回目は含み笑いだった。
「だから、今回のことは新鮮」
「え?」
「いっつも諦めちゃうのにねえ。紫乃は」
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