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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「そっちこそ、そーやってイチイチ台無しにしてくれんのってマナー違反なんすけど。マジ空気読めよ。あっちじゃどうだか知りませんけど、アンタこっちに来て何年なわけ?」

 何年だろう。何年だったろうか?

 売り言葉の買い言葉に、真面目に答える気もなかったが。

 それでも意識すれば、年月はあっさりと暗算できた。四捨五入して十年。自分でも、もうそろそろ習得していてもいいんじゃないかと思えた―――和、と称される日本の妙技を。

 それは才覚でなく技術だ。協調性だけでなくテクニックを要する。それは分かっていた。はずだが。

 顧みる。

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「首席って、大学を一番の成績で卒業したってこと? すご。そんな頭イイのに天然なんて、超かわいー!」

「でしょー。この先生の同僚が俺の馴染みでさ、」

 ふと、麻祈の目前のテーブルを、陣内の掌が横切るように這った。そのまま、コールボタンのわきに詰まれた灰皿へと伸びていく―――

「話聞いてると面白いのなんのって―――」

「吸う時は、」

 告げると同時。

 麻祈は、持っていたビールグラスを、とん・と目の前の陣内の手首に下ろした。

 しん、とサラウンドが消失する。どころか、そこにいる各々の仕草までもが立ち消えした。

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「名前の漢字だって佐藤さんから聞いてますよ。布地の『麻』に、祈祷の『祈』でしょ。他に知ってることも教えてあげましょうか? 日本を住処にした理由は水と茶と酒が旨いからだとか、ひとり暮らしの部屋選びの譲れない条件はインターホンの音だとか、」

 目蓋を開く。従業員が、新たなビールを運んできたのを察したから。

 麻祈は相手がグラスを配膳するのを待たず、その手からビールを横取りした。のみならず、そのまま口をつけて、胃へと液体を流しこむ。ニガしょっからい麦ジュースなど飲みたいはずもなかったが、今はそのひと口を飲み下す都度に内臓が軋む音こそを鼓膜が欲していた。

 中ほどまでグラスが空き、消化管の蠕動が次段階へシフトしても、陣内の話は終わらない。

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「ああ失敬。とても意外だったもので。まさか陣内さんが、男のことに暗記力を割くとはね。―――覚えておいでだったんですか。俺の名前」

 対する陣内は、そうした麻祈の豹変ぶりにこそ、興が乗ったようだった。ヌカに釘だった相手が反応したのだから、どこまでヌカでないのか確かめたくなるのも当然だろう。実際、陣内は顔つきと声に釘程度に尖ったものを含ませながら、口の端を上げた。

「よく、覚えておいででしたとも。あ・さ・き・さん」

「あさきさん?」

 と。

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「分かった。空気読んだんだ。めっずらし。学会とやらに行った時も、後輩ちゃんに、そんくらい読んでやったら良かったんじゃありませんかぁ?」

「えー? 学会って? すごぉい」

 女性のひとりが、口許を手で覆いながら歓声を上げた。それに、訝しむことしか出来ない。すごい。凄い? 確かに今回の数学学会―――の、あえて言うなら複素関数とランダム行列について―――は格別だった。だったが、それを理解しているなら、なぜ『学会』そのものに『?』がつく?

 そうやって意識を場へ向けざるを得なかったことを、直後に麻祈は呪った。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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