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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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面目を潰された陣内が、見るだに気色ばむ。

「そっちこそ、そーやってイチイチ台無しにしてくれんのってマナー違反なんすけど。マジ空気読めよ。あっちじゃどうだか知りませんけど、アンタこっちに来て何年なわけ?」

「―――……そうですね」

 一拍。

 拘泥するでもなく、麻祈はあっさりとビールグラスを退かした。言い添える。

「気をつけます。ありがとう」

「はッ」

 短く嘲る陣内だが、相手がそれに反抗しなかったため、そのまま忌み続けることは困難だったようだ。あっさりと顔の造作を聴衆向けの陽気に作り変えて、掴み取った灰皿を示してみせる。

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(葦呼ったら高校ん時から全然変わらないくせして、凄い人と知り合っちゃったりしてるんだぁ……向こうの大学ででも知り合ったのかなぁ。この人、何十年かしたら選挙とか出てたりして。スーツに白い手袋とナナメのタスキでさ。執事っぽいからスーツと白手袋なら似合うかもだけど、どうにも太っちょにはなりそうもないなぁ。ちっとも食べてないし)

 紫乃は、頬杖にビールグラスを噛ませている痩せた手首を見やった―――その間際にある青年の横顔は、彼への陣内の揶揄が殺伐とした敵愾心をちらつかせても、それゆえにその他大勢の不躾な注目を軒並み買ってしまっても、毛ほども動じていない。話題として啄ばまれるのに慣れているようだ。引っ込み思案で内気な自分など、自己紹介でドジっただけで硬直してしまったのに。格が違う。

 と。彼の目の前を、陣内の腕がかすめた。無反応さに業を煮やして胸倉でも掴むのではないかと息を呑むが、陣内の掌はすじ張った襟元になど目もくれず、コールボタンわきの灰皿へと伸ばされていく。

(吸うんだ。やだけど。そんなものかな―――)

 煙草は嫌だが、意見して目立つのはもっと嫌だ。その代償として、紫煙を吸う覚悟をする。のだが。

 声が聞こえた。

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「最初ン時に、陣内さんが説明してたじゃないですか。自分ン家から見渡した段々畑とか棚田が、全部自分とこの財産だったって意味の『段』なんだって。古くからの地元の名士ってヤツで」

「はあ」

「その次男。しかも帰国子女で英語ペラペラ。名門医大を首席で卒業。なのに、あの偉ぶらないフインキ。顔もガリ勉どころか、どことなくケルナルのトヒヤっぽいし。なんかもー揃ってるとこには揃っちゃうんだなってカンジしません?」

「はあ」

 フインキって雰囲気の間違いかなぁとちぐはぐなところに感想を覚えながら、矢継ぎ早な黄色い声へと変転していく彼女のせりふを、紫乃は見送った。相手は喋るにつれて己自身が口にするハイソなエリートへと傾倒を深めていっていたから、紫乃のことなどとっくに眼中になかったのは間違いないが。それでも紫乃は、自分のせいで損ねてしまった機嫌を相手が取り戻してくれて嬉しかった。

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(あ、あさきって苗字じゃなかったんだ……男の人、名前で呼んじゃってたんだ。うわあ恥ずかしい! ―――って、あさきが名前なら苗字は? ええと)

 それを思い出せない。さっきちゃんと聞いたはずなのだが、浅木に一点集中していたせいで、他には陣内しか覚えていなかった。

 どうしようもなく、お隣さんへと声を掛ける。

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「こんな名前?」

 そちらを見る。彼だった。陣内に、センセと呼ばれた青年。

 彼はサラダの盛られた皿のふちにフォークを手放すと、なにかの下準備を整えるかのように椅子の上で身じろぎして、自分の腹の前で指を組んだ。テーブルの影になっていて、実際に彼の手先の仕草を見たわけではないが、彼の視線が己のそれを見てから確かな剣呑を含んだのを感じた。さらには、それを鼻先で嘲笑したのも。

 そして眼差しも情念も、そのまま陣内へと矛先を定めた。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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