「いえもうあの、ホント大丈夫なので! お車、失礼します!」
と、声も身体も荷物も勢いよく、坂田が自動車に乗り込んでくる。麻祈の真後ろの後部座席だ。
置いてきぼりにされた感は否めなかったが、彼女に続いて、麻祈も自分のサイドドアを閉めた。
坂田の様子見に、バックミラー(Rearview mirror)へ片目だけ寄越しておく。麻祈に遅れてシートベルトを締めるべく躍起になっている坂田の表情と独り言からは、ベルトの固定用バックルを暗がりの中から手探りで見つけ出すという悲願達成への熱意以外は感じられない。
麻祈は、思考に匙を投げた。
(……あれこれ深入りする必要もないだろ。過干渉だ。こないだだって、そのせいで騒ぎに発展したんだし)
「―――え? あ、あった! 見つけ……てない、これ、ちが……」
(送り届けて、お役御免。それでいいし、それが一番。なんの問題も無い)
「あ! あった。今度こそあった。え? 入ったけど違う。抜ける。これお隣さんのやつ、―――」
(……実況中継だきゃあ分かりやすいな。この人)
「これで、よし―――あの、麻祈さん! も、もうオーケイです! シートベルトしました!」
「ええ。見えてますよ、俺からも。バックミラーで」
「そ、うですよね。はい。ごめんなさい」
「いえ、別に」
「…………」
「………………」
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