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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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.圧迫感軽減のためか、こういった本屋の本棚は、えてして壁際を除き背が低い。ぐるりとその場から見回すと、通路の辻ごとに、けばけばしい特集コーナーが軒を連ねているのが見えた。俯瞰していると、そのひと山ひと山が祭日を興す御輿であるかのように思えてくる。映画化記念。地上波初登場記念。【サムライ魂~今こそ、だから、時代劇!~】……

(―――斯(か)くして、いずれ亡霊またひとりってか)

 だとするならば、この中のひとりでも、ジェイデクバ・アーウレンほど現世に留まりえるのだろうか? 怪しいもんだと、麻祈は値踏みの半眼をめぐらした。

(野郎―――女郎?―――は、冠を無視したからこそ謎を纏えたんだから。かぶった冠を売りにするだけの奴らだと、冠を売り払ったあとの生身に価値はない……それこそ、冠を取っ替え引っ替えかぶり続けることができる実力者か、あまりに冠とちぐはぐすぎて印象に残るルンペン乞食でもない限り、一回ぽっきりで王様は終了だ)

 そして恐らく、どこかの些末な記録に残りこそすれ、誰の記憶にも残らない。金の切れ目が縁の切れ目なのは人生の初手である。本の中身そのものが愛や人情を語っているのならば、それはまさしく大いなる皮肉に他ならない。のみならず、―――

(それゆえ、まさしく、世知辛い)

 惰性でそのまま、視線を流して……

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(漫画本じゃないのか? これ)

 だとしても、違和感がある。麻祈が知っている日本流戯画(Manga)は、もっと冒険心や遊び心に度量があり、ジャンルとして開かれていた。少なくとも、表紙からしてこんな似たり寄ったりではなかった。

 傘は店内に持って入って来ていたが、本日は未使用で畳んだままだ。当然、手も乾いている。本に触れたところで、傷ませてしまう恐れはない。麻祈は、ビニール包装されていないそれを一冊、手に取った。

 適当なページを開いて目を通してみると、確かに文章は平仮名・カタカナ・漢字・ローマ字などで構成された縦列だ。ただし、話の内容も展開も行間を味わう含蓄が薄く、余韻も軽い。なにより、戯画化した生と性に、日本語らしいまろみとなまめかしさがない。欲情しろと言わんばかりに布一枚下の性感帯を見せつけるのが売りなら、やはりコミックやアニメーションのような視聴覚媒体として最初から購買層にアプローチした方が、よほど財布の紐を弛めやすいだろうに―――

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(言い寄って、一枚二枚と引っぺがしたいだけのことだ。好色な野郎との違いは、妄想して手を伸ばす先が女の服じゃなくて、死人の謎ってだけ。どっちみち、ロマンチストってこったろう)

 日勤を終え、夜が始まる刻限の手前。出版物をメインに扱う大型店舗内にて、麻祈は立ち止まっていた。

 居心地悪く、ボディ・バッグを担ぎ直す。近年ずっと、書籍の購入はウェブサイトを介した通信販売に頼り切りなっていたせいもあって、久しぶりの本屋に馴染めない……と言うよりか、昔は馴染んでいた覚えがあるだけ、馴染まない部分にひっかかるというのが正しいか。えらく丸く縮んだ兄から「え? なに食って、どうしたんだ? 麻祈」と怪しまれた、あの再会の時のように―――

(いや。あれは、一年くらいで俺が伸びたんだけど。一気に。身長。でもって、見下ろすようになった途端、桜獅郎の体つきが、貫禄ってよりも肥満っぽく見えるようになっただけなんだけど)

 それなのに、声も物腰も兄でしかありえなかった。あの名状しがたい奇妙さ。

 それを再び甘噛みしながら、麻祈は文庫本コーナーに立ちつくしていた。天井からぶら下がった看板表示に従ってここまで来たのだが、ジェイデクバ・アーウレンなど、見る影もない……それ以前に、文庫本という大前提すら、瓦解の危機に瀕している。少なくとも、その“文庫本”を目の前にした麻祈の内面では。

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.ジャイアー。

 それはマニアックな通称であり、史実に記された正式名称はジェイデクバ・アーウレン。それを亡霊であると断じる者もいる。

 その持論を夢想だとせせら笑う根拠に乏しいのは、ディープなジャイアリスト・アンド・アーウリアンたちでさえ渋面にさせる事実であり、それゆえに、その苦々しさこそがえもいえぬ隠し味となっているのだとの極論を豪語する狂信徒をも受諾せざるを得ない根底ともなっている。彼―――彼女?―――の生涯は、歴史として数奇であり、文学史として奇妙であり、言うなれば無限の奇々怪々に満ちていた。その一例として、産まれ、育ち、暮らし、老いる中で、それらと明らかにそぐわない自称を著作の自著に必ず冠し、にも関わらず、その冠をことごとく無視した。若き日のジェイデクバ・アーウレンの筆が万物の栄枯盛衰を描くことはなかったし、在りし日のジェイデクバ・アーウレンの文字は思い出の日中夜を写し取ることもしなかった。

 これぞ亡霊たる証である。そう諸手を叩く者は、歓迎して続ける―――現世のあらゆる整合性を無視する。それなのに、それゆえに、現世に存在し続ける!

(あほくさ)

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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