.圧迫感軽減のためか、こういった本屋の本棚は、えてして壁際を除き背が低い。ぐるりとその場から見回すと、通路の辻ごとに、けばけばしい特集コーナーが軒を連ねているのが見えた。俯瞰していると、そのひと山ひと山が祭日を興す御輿であるかのように思えてくる。映画化記念。地上波初登場記念。【サムライ魂~今こそ、だから、時代劇!~】……
(―――斯(か)くして、いずれ亡霊またひとりってか)
だとするならば、この中のひとりでも、ジェイデクバ・アーウレンほど現世に留まりえるのだろうか? 怪しいもんだと、麻祈は値踏みの半眼をめぐらした。
(野郎―――女郎?―――は、冠を無視したからこそ謎を纏えたんだから。かぶった冠を売りにするだけの奴らだと、冠を売り払ったあとの生身に価値はない……それこそ、冠を取っ替え引っ替えかぶり続けることができる実力者か、あまりに冠とちぐはぐすぎて印象に残るルンペン乞食でもない限り、一回ぽっきりで王様は終了だ)
そして恐らく、どこかの些末な記録に残りこそすれ、誰の記憶にも残らない。金の切れ目が縁の切れ目なのは人生の初手である。本の中身そのものが愛や人情を語っているのならば、それはまさしく大いなる皮肉に他ならない。のみならず、―――
(それゆえ、まさしく、世知辛い)
惰性でそのまま、視線を流して……
ふと、今までとは毛色が違う品揃えをしたカートに目が留まる。店員お手製の幟には、映画と原作をタイアップした特集中であることが記されていた。文字の横で、手足を生やしたDVDと革製本が腕を組んでスキップしている。
(そうだ。どっかのフリークが、うっかり映画監督になった我が儘で映画化してるかも)
麻祈は、うぐいす色の傘をステッキに、そちらへと足を向けた。
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