(漫画本じゃないのか? これ)
だとしても、違和感がある。麻祈が知っている日本流戯画(Manga)は、もっと冒険心や遊び心に度量があり、ジャンルとして開かれていた。少なくとも、表紙からしてこんな似たり寄ったりではなかった。
傘は店内に持って入って来ていたが、本日は未使用で畳んだままだ。当然、手も乾いている。本に触れたところで、傷ませてしまう恐れはない。麻祈は、ビニール包装されていないそれを一冊、手に取った。
適当なページを開いて目を通してみると、確かに文章は平仮名・カタカナ・漢字・ローマ字などで構成された縦列だ。ただし、話の内容も展開も行間を味わう含蓄が薄く、余韻も軽い。なにより、戯画化した生と性に、日本語らしいまろみとなまめかしさがない。欲情しろと言わんばかりに布一枚下の性感帯を見せつけるのが売りなら、やはりコミックやアニメーションのような視聴覚媒体として最初から購買層にアプローチした方が、よほど財布の紐を弛めやすいだろうに―――
(あ。そうだからこそ、まず活字から売るのか。漫画として漫画だけ売ったり、アニメーションとしてアニメーションだけ売ったりするよか、活字から静画化して動画化まで転がした方が、バリエーションあるだけ買われるから。熱心なコレクターなら全部買ってくれるし。そりゃそうだ。商売だもんな。うまいもんだ)
得心して、麻祈は本を閉じた。五人の昆虫に囲まれた平凡な好青年のめくるめく思春期が中断し、並み居る同類たちの一員へと埋(うず)もれる。
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