.店の出入り口の自動ドアは、店内の冷暖房を逃さないものと外気を遮断するものと、二枚で仕立てられている。麻祈は店内から一枚目のそれをくぐって、ふと不審に立ち止まった。時刻が時刻にしても、いやに外が暗い気がする。
とりあえず、破天荒なガシャポン―――まあ欧米のような蛍光色の菓子がつまったものは無い―――がずらりと陣取っている中間地点をウィンドウ・ショッピングするのは忘れずこなして、上背を曲げた拍子にずりさがってしまったボディ・バックを担ぎ直す。傘を突きつつ、二枚目の自動ドアを抜け……
「ぶあっぬるぐさっ」
たちまち湿気に目つぶしされ、悲鳴がへしゃげた。
むせ返って、目をしばたく。どうやら店内にいた小一時間のうちに、激しく夕立が降ったようだ。そこかしこにある建物は隅々まで雨滴にぬれて夕闇の暗黒をより一層に黒ずませており、足元では濁流と泥流がのた打ち回っている。駐車場は隅々までコンクリート舗装が行き届いているというのに、土埃がどこからどう寄せ集まったものか、そこかしこに泥だまりが出来上がって、もう足跡までつけられていた。見上げれば、空はとっくに雲を薄めている。まだ小雨はぱらついているが、にやつく歯列を思わせる下弦具合でぷかりと浮いた三日月は、知らん顔して薄ら笑みだ。
(気楽そうでいいよなぁ。そっちは)
天球さえ恨めしく、ため息をつく。夏季名物の通り雨がやってきたのかと思うと、それに備えて傘を持っていることさえ嫌になる。こんなものを携帯していない奴がうらやましい。自然に、同じ店の軒先、二メートルくらい隣で雨宿りしていた手ぶらの女に目が泳いで……
怪訝に、麻祈は顔をしかめた。手ぶらの女? 否。それだけでない。自分の見間違えでなければ、彼女は―――
「坂田、さん?」
「はい(Oui!)!」
なんでまたフランス語でイエスと言ってくるのかは定かでないが、とにかく彼女―――坂田が叫んで、仰天したように振り返ってきた。
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