.いつしか丸まっていた背を伸ばしつつ坂田に顔を向けると、彼女は傘の柄をこちらに固めたまま、あんぐりを引きずっていた。が、目が合った途端にまた麻祈が爆笑を再燃させかけたのを察して、さっと顔色を変える。真っ赤になっている顔をひときわ怒張させて、鎖骨の下にグーを握り、麻祈と負けず劣らずの大音声を張り上げてきた。
「な、なんで笑うんですか!?」
「だって。ついてくるから」
そう答えるしかない。のだが、坂田は倍加して食ってかかってくる。
「ついてくのがおかしいんですかっ!?」
「いいえ。ちっとも」
「じゃあどーして笑うんですかっ! 一所懸命なのを笑うのって、絶対にやっちゃいけないことなんですからっ!!」
「ごめんなさい」
「そうです! お詫びしてください!」
「すみません」
「そうですよ!」
「失礼しました」
「そうです! しましたんですから!」
「許してください」
「許されたら終わりとかないですから! 絶対ないんですからね! わたし笑われたことも麻祈さんが笑ったことも無かったことになるなんて絶対ない―――!」
なくなりはしないらしい。自分だけでなく、彼女からも。
大笑いしたのは久しぶりだ。そしてそのことが、思いがけなく気持ちいいと思えたのは、もっと久しぶりだ。
「ありがとう」
そこで、坂田がフリーズした。
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