.真正面。ぽけっと開いた口を酸欠した鯉のようにぱくぱくさせてから、やはり怒りまくったせいで酸欠だったのか、ひどく大人しい音量で囁いてくる。
「……どう、いたしまして……」
「よかった」
安堵した拍子に、本音がこぼれた。
そして本音と共に、安堵も抜け落ちていく。
うそ寒い暗がりで坂田を見る。店内と野外の違いはあれど、それはこれで二度目だ。一度目の詫びでさえ、おろそかにしたというのに?
(どうすればいい?)
言うべき言葉は? 行うべき行為は?
坂田を見て、そのお門違いさに気付いた。
彼女は、またもや水びたしとなっていた。溺死防止訓練のために、服を着たままプールに投擲された直後のようだ。気温が温暖なせいか、踏み散らかした水たまりがアスファルトの上で泥跳ねがなかったせいか、不愉快そうな素振りが目立たないので見過ごしていた。
(また、俺は自分ばかりで……また繰り返すところだった)
それに、気づけて良かった。
坂田へと、申し出る。
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