「ねえ」
「うん」
「あんたさ」
「うん」
「惚れてんでしょ。あの人に」
そして真顔のまま、続けた。
「おめでとう」
「ありがとう」
紫乃がこたえて、話は終わった。
それは、ひどく自然だと思えた。そう思ってしまうことに、疑問は無かった。おめでとう―――ありがとう。そのやり取りと同じくらいに、多分これは自然なことなのだろう。
きっと、準備はできていた。それが分からずにいたし、こわくもあった。拒絶されるかもしれないから、こわがらずにいられなかったのだ。だから考えるふりをして、考えれば分かることを試さずにいた。考えるまでもない話なのに。
ありがとう―――どういたしまして。それと同じだ。認めることで、次に繋がって、続きへと進める。認めないままでいられるように考えるふりをし続けるのは……言い訳をごねるのは、とっくに、おかしくなっていた。
それを“どうして”とは思わない。彼には、尋ねるまでもない。
麻祈のことが好きだ。
[0回]
PR