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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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。紫乃は、お辞儀したまま、目をぱちくりさせた。

 たったそれだけの戸惑いさえ彼にはなく、上から声が続く。

「もったいないなら、そのまま家の人に使ってもらって」

「あ」

 紫乃は、顔を上げた。

 そういった変化さえ、彼にはない。眉と目尻の角度だけが、微苦笑にほだされて鈍角に傾いだ。

「別に、カシパクられたって佐藤に吹聴したりしやしませんよ」

(かしぱくられた―――借りパクされた?)

「それじゃ、お元気で。おやすみなさい」

 そんな食い違った感覚さえ、紫乃にしかなかったようで。

 言い終えた彼の顔がフロントガラスに向いた。それに続いて、手の先もハンドルを握る。アイドリングから再稼働したエンジン音と排気が息巻いて、寝静まっていた夜気をどよめかせた。そんな余震だけでなく、実際に車が動き出す……ゆるりと、前に。いつの間に開閉スイッチを切り替えたのか、パワーウィンドウが閉じられようとしていた。締め出される。
あの中にいたのに、自分は履いている彼のサンダルごと、あそこから締め出されてしまったのだ。

(わたし、なんか、)

 わたし、が。わたしじゃ。わたし。わたし。わたし。

 ―――あんたいつまで、わたしだけでいるつもり?

(この期に、……及んで―――!)

 かっと、頬が上気した。

 葦呼に後ろ指を差された気がしたがゆえの恥だった。誰よりも劣る己を疑わず、甘やかすことに慣れ切っている自分への怒りでもあった。そしてなによりも―――麻祈に、呼びかけるため、力んだ。

 声を、届ける。

「捨てません! 返します!」

 今は、声だけで精一杯だとしても。

 いつか、その日に、

「―――返しに、行きます!!」

 乗用車は、角を曲がって視界から去った。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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