.この玄関のたたきには、大人が二人収まる広さなど無い。解錠したドアを押しのけて身体半分ほど外に出ながら、麻祈は坂田のそれを見ていた。右足、そして左足―――ぎこちない所作といい、靴下を脱いでからのゴムの締め付け痕といい、よそに預けられた小学生のようだ。用意されていたフィットしない靴と靴下を、気兼ねしながら使うしかない。靴で靴ずれしないように―――靴ずれしたところで、靴下に血がつかないように……
慣れ親しんでいた足だった。それは、かつて段の家で。
(―――ああ。俺なのか)
それを思い出した。
思い出し続けないうちに、外に出る。
廊下を消灯すると坂田も出て来たので、部屋の鍵をかけた。一階に向かって、さっき通った通路を、逆順に下っていく。そこを通う風の音も同じ。通う際の反響の具合も同じ。だからだろうか、自分ではない足音が気になってしまうのは。
自然に歩こうとすればするほど不自然さが際立つ、拙い歩調。
それを、無性に紛らわしてしまいたくなった。
「誰も悪気なんてないのにね。かわいそうなことに、それでも、歩きづらいんだ」
「え―――麻祈さん、なにか言いましたか?」
聞かれていた。
あまり振り向かないまま、繰り言を呼びかけに挿げ替える。
「歩きづらいですよね。かわいそうに。すぐ近くですから。駐車場」
「はい……」
坂田の返事も、それで終わる。
それでいい。過去に麻祈はそのように祖父らから話かけられたことはないし、話かけられたところでそのような返事はしなかったろうから。
やがて、地上に立つ。
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