「はい」
「え?」
「坂田さんの靴。持って帰らないと」
「え? あ」
「まさか、乾かした足をまたこの靴に突っ込んで、お帰りになるおつもりで?」
「いえ。その、」
「とりあえず今は、代替えで、俺のサンダルを使うってことで。サイズは合わないでしょうけど、またぐしょぬれになるよりいいし」
言いながら、言葉通り下駄箱からサンダルを出す。この夏に備えて新調したばかりで、まだ数回しか着用していない。
のだが、受け取った袋を提げた坂田は廊下でやや下向きに、じっとしているだけだ。彼女を躊躇わせる要素があるとしたら、やはりこれだろう。口を開く。
「……重ね重ね申しますが、俺、ほんとに感染性の持病は、」
「そうじゃないんです」
「はい?」
「―――失礼します」
そっと、坂田がサンダルに踏み込んだ。
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