.坂田のそれは、タッチパネル式の携帯電話だった。手鏡のように構えた画面が点滅し、黄色人種の黄味がかった白磁の肌を、幽霊のような薄ら青に脱色する。四角い光の水面を、すいすいと指先が滑った。姉からの返事でも確認しているのだろう。
(そっか。もう日本でも販売されたんだっけ。便利なのかなぁ。あれ。携帯電話の十徳ナイフ版)
どうでもいいことを考えて、麻祈は時間を潰した。行為を用途別に切替えたい自分としては、電話は電話、カメラはカメラ、インターネットはパソコンと、各自独立していてもらった方がありがたいので、じぶんのそれを機種変更しようなど思ったこともない。なので当然、そういったタイプの携帯電話で特化したソーシャル・ネット・サービスにも興味なく、それに参加している多数の同級生間において、麻祈は音信不通イコール行方不明と見なされては、留学しているだの放浪しているだのヤクザの女に手を出して首都湾岸へダイビングを強制させられただの勝手気ままに吹聴されている―――らしい。なにせ己の知らないコミュニティーにおいての乱痴気騒ぎだし、乱痴気騒ぎゆえに首を突っ込みたくないので、面白半分に口伝されてくることより詳しくは知らないが。不愉快は不愉快である。
(めんどくさ)
と。
「―――あの。お迎え、しばらく時間がいるみたいで……」
「そうですか」
坂田へ応じて、麻祈は立ち上がった。気分転換を図りたい心地がしていたので、迷いなく提案する。
「じゃあ俺、車で送ります。タオルとマグはそこに置いたままで結構ですから。行きましょう」
「え!? あ、そんな!」
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