(諦めろよ。こわいんだろ? 嫌なんだろ? 俺に関わってロクなことなかっただろ? そうだよ。それでいいんだよ。だったら、―――)
 手が落ちると、肩も落ちた。目線も、下に傾ぐ。スカートの下に、やわらかそうな対のふくらはぎが覗いていた。
 眺める。いつしか、それは、舐めるように。
 素足の足首から、ひざ下のくびれ、そこから衣服に隠された太腿へと虚妄が及ぶ。その奥、更なる深みへと沈む。夏服は薄そうだった。実際、先日は、雨に濡れただけで透けていた……なめらかな産毛を生やした、やわらかそうな湯葉色の胸元と、そこに這う菫色をした静脈を思い出す。そう言えばさっきは夢うつつに射精しただけで、生殖器の刺激による快感を追い損ねていた。今なら塒(ねぐら)まで引っ張り込むまでもない。立位なら立位ならではの自由度と醍醐味が―――
(あーもう。ああもう。あほだ。サルだ。勘弁してくれ)
 臍の奥で悪寒が燃える。その火種を揉み消すように、麻祈は自分の横面を叩きつけた。そのまま、握り込む。
 その物音に異様に驚いた様子で、坂田が振り返ってきた。頬骨から鼻筋にかけて手をあてがったままの麻祈を見て、うわ言じみた震え声を振り絞る。
「ご、きぶり、素手で、やっちゃったのかと、思いました……」
「……例え話として、実に惜しい……」
 ひとりごちた途端に、坂田が鼻白む。
「おし、惜しかったんですか!? ニアミスったんですか!? 手!!」
「ははは。あはははあ。そんなわけありませんですよぉ。ははは」
 そうだ、惜しかったのは例え話だ。本能も害虫も、快感めがけてまっしぐらという点では、非常によく似た存在だ。あの虫も、本番前は丹念に戯れるらしいし―――
「おととい来やがれゲス野郎(Go fuck yourself, Dick!)」                                                                    
                                            
                                                                            
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