. そして、今の人材派遣会社の面接を受けて、合格した。正社員は紫乃を含めて十人にも満たない中小企業だが、ボーナスもあるし、給金は年齢に応じた昇給制で、交通費も支給対象。なにより、アットホームな社風が好ましかった。お茶を出せは必ずありがとうと返ってくるし、難しい顔で考え込んでいたら体調を気遣われるし、社用のカレンダーなのに社員の誕生日には該当者の似顔絵が描いてある……絵手紙が趣味の会長の茶目っ気だ。お昼時にはお弁当を持ち寄って、一台きりしかない時代遅れの分厚いテレビを囲み、連続テレビ小説をチェック。家族経営というのも頷けよう。まあ、おかげで年齢層が壮年以上でかたまっている管理職一家はパソコン処理がとんと苦手で紫乃に丸投げだし、夫婦喧嘩なんかもまるまる社内まで持ち越されて冷戦の火蓋が切って落とされることなんかもあったりするのだが、それだってまるく収まれば、団欒の足しになる逸話にまた一輪の花が添えられるだけだ。
紫乃は、ほどほどにこの会社が好きだった。上野はどうだったろうか?
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