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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「え?」

 信じられず、紫乃は声を上げた。上野は、まだ身じろぎすらしない。顔はのっぺりと無表情。変な手先の横向きの寝相で、呼吸を繰り返しているだけだ……だけで、いい。麻祈はそう言うが。

「脈とかみたり、人工呼吸とか心臓マッサージとかはしなくていいんですか?」

「このケースでは不要でしょう」

「そ、そうなんですか。はー」

 天井を仰いで、大息を吐く。

 手がこっていることに気付いて、紫乃は携帯電話を持ち変えた。

.

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「よろしい。でしたら、次へ移ります。そこは屋内でしたね。廊下の材質はなんですか?」

「え?」

「石? 木? まさか土?」

「ふ、フローリングです」

「よろしい。でしたら、そのまま対象者を仰向けから横向きにしてもらいます。対象者の脇腹の横へ移動して下さい。左右どちらでも構いません」

 言われるがまま、紫乃は動いた。

「着、きました。脇腹の、横」

.

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. 胸倉から携帯電話を引き抜いて、麻祈にそれを話した。すると、訊いてくる。

「坂田さんの位置は?」

「上野さんの頭側。そこに座ってます」

「分かりました。それでは、対象者の肩を軽く叩きながら、大きく声をかけてください」

「はい。上野さん、上野さん! しっかりして! 上野さん!!」

 そうして、待つ。のだが。

.

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「両者の姿勢は?」

「上野さんは、廊下に倒れています。横向きに。トイレの出入り口のところで。わたしは、そこから少し離れたところで、へばってて」

「他に協力者は?」

「麻祈さんしかいません」

「こちらこそ坂田さんしかいません」

 それを、告げられた。

 だけでは、なかった。

「どうぞ、よろしくお願いします」

.

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「坂田さんと対象者の居場所は?」

 淡々と続いていくせりふに、まるでこちらのうろたえ方が場違いだと暗喩されているかのようで、紫乃はもう相手に誘われるがまま身を任せるしかなかった。そうだ、学校の授業でもこうだった。解答することが出来ていた問題を、教師に当てられると口から先に出すことが出来なくて、「分からないのか」という断定に「分かりません」とうな垂れるしかなかった―――

 あの時と今は違う。麻祈は、なにひとつ決め付けていない。紫乃が錯綜を振り切るのを待っている。待ってくれている。

 だとしたら、自分は、こたえなければ。あの時、教師は紫乃を見捨てて満足したけれど、麻祈は恐らくそうしないから、こたえなければ。紫乃は、ぎこちなく振幅する眼球を酷使して、認識した状況を換言した。

「か、会社の寮。その、上野さんの部屋。それで、そこの廊下で、」

「寮の一室の中、廊下の上ですね」

「そう、そうです」

「両者の身の安全は確保できていますか?」

「みの、あ?」

「そうです。そこは、そのままじゃトラックに轢かれそうだとか、このままだと凍え死にそうだとか、ガスで中毒を起こしそうだとか、そういった危うい環境ではないんですね?」

「……はい。はあ。室内ですし。ガスも。そんなのは」

 冗談ではないのだろうが。冗談にしても唐変木なことを嘯かれた気がして、そんな評価を差し挟めるまでに冷静さを取り戻している自分に驚いた。驚く余裕がある自分にも気付いた。

 再びの、麻祈の質問。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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