. 胸倉から携帯電話を引き抜いて、麻祈にそれを話した。すると、訊いてくる。
「坂田さんの位置は?」
「上野さんの頭側。そこに座ってます」
「分かりました。それでは、対象者の肩を軽く叩きながら、大きく声をかけてください」
「はい。上野さん、上野さん! しっかりして! 上野さん!!」
そうして、待つ。のだが。
.
「駄目です。ぐったりしてるだけ」
「よろしい。でしたら、次へ移ります。坂田さんは、仰向けの対象者の頭側に座っておいでるんですね?」
「はい。肩口の辺りに。美容師さんと、シャンプーするお客さんみたいな位置関係」
「そのまま対象者の胸と腹を、じっと見つめて下さい。これから十秒数えます。目を離さないで」
「はい」
「いち、に、さん、―――」
カウントが終わった。
彼の声が始まる。
「呼吸はどうでしょう。胸か腹に動きは?」
「はい。息、してます。動いてる……」
「その途中、しゃっくりするような引き攣りは?」
「いいえ」
「呼吸から異臭はしますか? 血液や、嘔吐したものの生臭さは?」
背を折って、上野の顎先に鼻を寄せる。嗅覚に集中するが、
「しません」
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