「―――いい、ん、ですか?」
「もちろん。誰だって、そうなります」
彼は動じない。そしてここにいる。
またしても紫乃は、それに縋る。
「そう、なんです、か?」
「そうですとも。……ひとりで不安でしたね。とてもこわかったでしょう。それが辛かったでしょう。それなのに、こんなにも頑張ってくれたんですね。そして、今でもそこで頑張っているんですね―――頑張って、くれているんですね。ありがとう。坂田さん」
大丈夫。彼が、そう言った。
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「だから。もう、それだけで大丈夫だから。どうか、安心してください。救急車は、今から呼んだところで、ちっとも問題ありません」
「ありま、せん、ですか?」
「もちろん。大丈夫です。この電話を切って、それからそちらへ連絡して下さい」
「します、けど―――」
「けど?」
「けど、わたし―――」
「わたし。が、どうしたんです?」
「―――これ、切りたくないですよぉ……―――」
紫乃は、泣きじゃくりかけていた。
上野とふたり残される。それだけでない寂寥を予感していた。
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