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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「どうも。さかた。お久しぶりです。さかた?」

「い、葦呼に繋がんないもんだからー!」

「ああ坂田さん。佐藤葦呼の。先日はどうも。お久しぶりで―――」

「たったたた助けてください! 会社の寮で上野さんが倒れてて、怪我とか血とかはないんですけどぐったりしてて全然もう、わたしどうしたらいいか分からなくて―――!!」

「ため息」

 意味不明だった。

.

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「只今お掛けニなった電話番号は、現在電源が切られてイるか、非常ニ電波が悪イ環境ニあるため―――」

「な、……んで―――……」

 万人向けの受け答えしかしない機械音声に喘いで、紫乃は自失した。万が一の事態なのに。こんなにも、万が一なのに。

 どうして繋がらない? どうしてこんな時に、電話が葦呼に繋がらないんだろう? 葦呼に繋がらない時は、どうしたらいいんだっけ? 葦呼。佐藤葦呼さとうイコ佐藤

.

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「ひッっ」

 息を呑んで、それを肺臓から搾るまでの数秒。

 その間に、それが首だけでなく、胴体と連なっていることを理解する。上野は、床に横倒しになっていた―――トイレの個室から肩口を飛び出させるかたちで、こちらに顔面を向けている。一瞬でも首だけかと思ったのは、その構図と、首まわりを縁取る長い髪によって、蒼白の細面だけが際立って見えたせいだ。実際、居室の暗がりと暗褐色のトレーナーを着た上野は、蜃気楼のように、顔だけが浮世離れして見える。

「うえ、の、さ」

 尻から太腿にかけて質量を感じてから、紫乃は自分が床にへたり込んだのを自覚した。ぶるっと震える。悪寒を感じた。それは、床の冷感によってか? まさかの霊感によってか? よもや、尿意のそれなのか? 漏らしちゃ駄目、こんなとき漏らしちゃうとは聞くけど駄目だから。だから。それだから。漏らさない以外は、どうしたらいい?

.

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. 高鳴る鼓動が邪魔だ。音なんか、それしか聞こえてこないんだから、とにかく邪魔だ。だったら耳じゃなく、目で確かめないと……室内を覗かないと……

 そうする。もうわずかばかり、ドアを開けて、首を突っ込む。見えてくるのは、小さな玄関から、奥へと伸びる狭い廊下。芳香剤の香りの中に、生活臭を嗅いだ。廊下の上には豆電球が点灯されっぱなし。パンプスが一足、横転している。誰もいない。

 そしてやはり、なにも聞こえない。

 なら、奥では音が聞こえている誰かがいるのか、確かめないと。紫乃は喉笛を吹くために、息を吸った。乾いた舌が粘膜から剥がれてひりつく。呼吸器を焼き上げてくる空気が、そこをこすって痛い。考えろ。それを考えろ。考えればいいじゃないか。二の足を踏む理由はこんなにもあるのだ。そのどれひとつも採用しないでおく理由こそ、ひとつさえありはしない―――

「う、えの、さん?」

 呼びかけた。

.

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. 気後れしないでもない。中まで見通せないことなど分かっていながらも、扉中央にあるドアスコープを覗き込んでみる。分かってはいたが、なにも見えない。

(ていうか、これで向こう側から見られてたら、わたし今ほんと怪しさ満点じゃん。正真正銘の不審者じゃあるまいし、さっさとインターホンを押せばいいんだから。それで、社長に報告すれば済むんだから。よし)

 きゅっと拳を固めて数秒。そこから立てた人指し指で、紫乃は呼び鈴ボタンを押した。

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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