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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「よろしかったら、一緒に行きませんか?」

「え? あ、そんな……―――はい。すいません」

 彼女はいったん身を引く様子を見せはしたものの、突如として物陰から中年男がふらつき出てきたのを目にして、ぎょっと意地と遠慮を呑み込んだ。自分からすれば、それは単なるワンカップを持った飲んだくれだったのだが、繁華街慣れしていない女性からすれば、害意に漫(そぞ)ろとなった殺し屋がブラック・ジャックを携えてお出ましになったワンシーンに匹敵したのだろう。殺人代行専門業者(Job killer)が、そんな非効率的な凶器をわざわざ選択するシチュエーションなど考えつかないとしても、問題はそこではない。

.

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. 押しのけたドアの上に付いたカウベルの音色が、従業員の送別の声と重なった。後者へ律儀にお礼している彼女を、ついうっかり異国の古癖(ふるぐせ)でドアを保持したまま待ちながら―――まあ大学時代のようにホストだキザだエロホストだとからかってくる目撃者は存在しなかったから問題視の範疇に無かろう―――、新鮮な外気の冷たさをたっぷりと舐(ねぶ)る。爽快だった。純粋に。

 待ち終えて、麻祈は外に出た。ドアをバトンタッチしたその女性に、それでは、と会釈して帰路につく。

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「ありがとうございます。そう誘って下さるご好意だけ、ありがたく受け取らせて戴きます」

「すいません」

 との唐突な声の方を向けば、これまた例の、はぐれ日本人旅行者だった。外套の中で肩身も狭そうに片手を上げ、言ってくる。

「ごめんなさい。わたしも、これで」

「そっすか。残念」

 肩を竦める気楽さにせりふがただの儀礼でしかないと代弁させている陣内に、それでもその女性は謝罪を重ねた―――のだが、途中で彼が二次会メンバーへと振り返ってしまったので、その小声さえ、半ばで折れてしまう。それでも彼女は、なお続けようとした……と見えたが、

.

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. 正義とは平等と公平である。

 それは大昔に手に取った、日本の看護学生用教本で目にした記述だ。

 なら時空と物理法則が正義か。その時、麻祈はそう思った。

 こんな時にも、それを思い出す。滞りなくテーブル会計を済ませていくスタッフに感謝しつつ、自分は自分で役割を果たすしかない時だ。これを終わらせれば時は過ぎると念じながら、言われるがまま金を払い、乞われるまま携帯電話を操作した。なにをどうやったのか詳しく覚えていない。必要なら陣内とショートコントだってやったろう。さっさと手を切りたかった。一刻も早くそうできるなら、なんだってやっただけだ。

 真っ先に席を立ち、椅子の背から引き抜いたジャケットに袖を通す。

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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