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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「あ」

 麻祈が、声を上げた。まるでそれが動作の代金だったかのように、ふっつりと歩みを断つ。

 こんな自分の所作が、なにか悪い方にでも働いたのだろうか? 心底それを疑るでもないが、それでも怖じ気づいた紫乃は、慌てふためきながら麻祈の真横に戻った。彼はなにやら、小道から大通りに出るきわのところで、目を丸くしている。それを、尋ねるしかない。

「え? ど、どうしたんです?」

「坂田紫乃さん」

 いきなりフルネームで呼ばれた。

 それよりも―――

.

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「―――はい。すいません」

「なら、行きますか」

 見ていやしなかった筈なのに。返事があった。

 顔を上げる。麻祈と目が合った。

 彼は、紫乃を見つけてくれていた。今この時さえも。

 言うしかない。

「あ、ありがとうございます!」

 彼はそれを、女性が同行者を得た安心ゆえの凡庸な謝辞と捉えたらしい。こちらこそ、とだけ口にして、やんわりと歩き出す。紫乃も、それに倣った。

.

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「あの」

 と声を上げ、麻祈が立ち止まっていた。

 のみならず、顔を振り向かせていた。だけでなく、話しかけてきていた。距離を置いて、真後ろにいた紫乃へと。あろうことか、向き直った。

「帰り。どうなさるんですか? 僭越かと思いますが」

 紫乃は、その場に立ち尽くした。

.

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(お医者さんなら、きっとこんなゴチャゴチャなとこじゃなくて、イイとこに住んでる筈だもん。だったら、きっと大通りまで出てくれる。そこまで行けたら、わたしだけで、駅までの道くらい分かる。だから、それまでついていかせてください! こっそりしてますから! ごめんなさい!)

 ひたすらに、ただひたすらに平身低頭しながら、麻祈の踵を追う。

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. 店は、まだ繁盛を続けるらしかった―――通りすがる客席の顔ぶれは入れ替わって、食事ではなく酒精と歓談をつまむのを目的とした年齢層の割合が増えている。繰り言もろともチーズを噛む老人達や、シャンパングラスを繊細なベルとして奏でては、乾杯でなく幸福を暗に周知させてくる恋人同士だ。

 それらの憚(はばか)りとならぬよう、縁の下でくるくると立ちまわっていた給仕係のひとりが、それでも律儀に紫乃へと頭を下げてくる。

「ご利用ありがとうございました。道中、何卒お足元にお気をつけて、お帰りくださいませ」

「あ、はい。ありがとうございます。こちらこそ美味しかったです。はい」

 そうして礼を返すうちに、歩を止めてしまっていた。

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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