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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. どこかせいせいしながら、紫乃は姉の車の助手席に乗り込んだ。

「ありがと。お姉ちゃん」

「ん。シートベルトすんのよ。睡魔にシャーマニズムされてちゃ、安全運転できっか分かんないから」

 寝巻きのジャージに玄関サンダルという格好のみならず、しょぼつかせた眼に正直に睡眠欲を自白させながら、姉がぼやいてくる。助手席の日差し避けにぶらさがる交通安全お守りは、相変わらず日焼けしすぎて茶ばんだままだ……一年ごとに変えないとご利益が無いと口酸っぱく言っているのに、一向に交換してくれない。どころの話ではない。シートベルトやらエアバックやらなんちゃらシステムやら最新鋭の安全機構にガードされているんだから、そちらのメンテナンスを手塩にかける方が、布と紙のポチ袋をせっせと取り替えるよか金額相応のご利益があるとか言ってのける。罰当たりである。元日の初詣さえ、エア賽銭で済ませていたくらいだ。神社に住んでる神主さんへの給料として払ってあげてと懇願したら、それもそうだと社会人になってから五百円玉に替わった。罰当たり以上に罪作りな気がした。誰への、かはよく分からないけれど。

 ぶわんと、お守りが揺れた。車が前進する。

.

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. お辞儀を終えて、レシートを胸倉に、顔を上げる。そこでは、麻祈が微笑していた。

 紫乃は絶望した。

「それじゃ、お疲れ様でした」

 言い残して闇夜へ翻る、彼の面差しから、ほほ笑みが消えない。

.

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. 手にした紙―――どうやらレシートらしい―――を差し出しつつ、言ってくる。

「もしよろしければ、佐藤に繋がらない時は、こちらにどうぞ」

「え?」

「俺の携帯電話の番号です」

 とどのつまり、個人的な連絡先。受け取るなんて、そんな。

 ニュース速報のような警告が後ろ頭を射てくるけれども、

「俺なりに心当たりがある居場所に、佐藤がいるか連絡が取れるかもしれませんから。どうぞ」

「あ、はい。すいません……」

 自意識過剰だった。羞恥に悶える。それを見られたくないなら、彼の目を引く行動をしてはならない―――とのドミノ倒し的思考に流されて、紫乃は俯いたまま、おずおずと用紙を受け取った。大体にして、そういった目論見で連絡先を交換するなら、さっき合コンの終わりにそうした時に、紫乃とも携帯電話で赤外線通信していたはずなのだ。思い上がりも甚だしい。

 その時だった。自分の鞄の中から、携帯電話が震える。通話の振動だった。

 それを見下ろしたのと入れ違いに、上から麻祈の囁きが降る。

.

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「高校の終わりから」

「それはそれは」

「でも、葦呼の今回の誘いはびっくりしました。普段こっちからケータイにかけても、あんまり繋がらないのに。急にあっちからなんの連絡かと心配したら、損した気分です」

「院内にいると、それはどうしても。まあ佐藤の場合、オンコール日以外は、自前の携帯電話を自宅に置きっぱなしにすることもザラのようですが―――あ」

.

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. ふと、麻祈が唇に隙間を開かせた。歯の白ささえ影に隠れるほどの僅かな間隙から、声が聞こえてくる。

「彼女には、いつもお世話になっています」

「いえこちらこそ。じゃなくて、あたしこそお世話になってて。彼女には。あれ?」

 そんなつもりなく、煙に巻くような応答をしてしまうが、彼はやんわりと笑んでくるだけだった。慣れている。

 それを察した紫乃は、彼は決して寡黙でも口下手でもないことまでも、察するしかなかった―――彼は、必要とあらば、多弁にだって多動にだってなれるだけだ。どうするのが最適なのか敏く演算し、演算結果を現出させるためのマインドコントロールに卓越し、それに基づいた自己プロデュースにセンスがある。それだけだ。だからこそ……

(麻祈さんは、ただ陣内さんと合コンにいるだけのために、こうやって“ああしていた”んだ)

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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