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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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(酔ってるんだ。馬鹿みたい)

 ひどく卑屈になってしまっている。それが気持ち悪い。微酔によって齎された浮遊感が、自分の足元にある落とし穴を踏み抜く直前のそれのように感じた。つま先に蟠るそれは、自分自身の影に過ぎないと、それを分かっているのに―――

 その黒い虚無が、不意に、広がった。

 落ちる。本当にそうなったはずもないが、それでもそうやって陥穽に落下する瞬間を思わせるばっとした俊敏さで、紫乃は頭上へと顔を跳ねさせた。

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「皆さん。今日はありがとうございました。俺は、これでお暇させて戴きます」

 女性と交換したアドレスを確かめるでもなく、畳んだ携帯電話をボトムスに突っ込んで。自然なタイミングで、麻祈が席を立った。彼女らの引き止めようとする懇願も、彼の退出路を自然に塞ぎながらの陣内の夜遊び勧誘も、蹴るでもなければ従うでもない……つまりは、聞いて、聞き入れて、聞き入れたものを聞き流した。上着を正して椅子を整え、今回の夜会の同席者への感謝を、言葉と仕草で手向ける。

 紫乃はと言うと、やはり彼のようにスムーズにはいかなかった。慌てて席を立ってコートを着込み、陣内へと小ぶりに挙手をする。

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(麻祈さん、合コンでどうだったって葦呼に聞かれたら、なんて言おう?)

 応答は浮かばなかった……少なくとも、洒脱なそれは。楽しくはなさそうだった? 楽しそうに装っていた? そしてそれが、紫乃よりも上手だった? それとも……勝手な自意識から、合コンを楽しめない同属を増やしたがっていた紫乃しか、最初から最後までいなかった。とでも?

(わたし、あの人にとっての何でもないのに。こんなこと考えて。ほんと馬鹿)

 失笑でもされたなら無力感を嘆いて楽になれるかもしれないが、どれを報告したところで葦呼は口のふちすら微動だにさせないだろう。彼女の無性的な感性を知っている以上は、そうすることなんか出来やしない。

 ぐずぐずと内に篭っていると、閉会の時間となった。

 ファンファーレのようにそれを宣告した陣内だったが、これは終了ではなく幕開けの合図だと、二次会の企画をお披露目する。男性らのみで会計を進めさせつつ、彼自身は大雑把に採った二次会の希望から、総合的に可もなく不可もないダーツバーを会場に提案した。紫乃自身は、財布を取り出しそびれた鞄の中の手をどうするべきか―――確かに葦呼は男性に振る舞ってもらって来いとは言っていたけれど、自分は合コンに参加しに来ただけで食事をせびりに来たわけじゃないんだから―――を思いあぐねているうちに、なんの意見も出せなかったのだが。

 おおよそ肯定の方向へと全体の動向が流れたのを感じたらしく、陣内が予約を済ませた。そして、歓声を上げる。

「はーいそれじゃー、二次会トんじゃいますかーア!」

 応、というニュアンスの嬌声やら発破が喝采されるスクラムに、自分だけが参加できない。

 否。しない、という意味ならば。それは、紫乃だけではなかった。そもそも二次会という選択肢が、彼の予定から欠落していたのだろうが―――

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. どことなく麻祈が気に掛かるまま、時間が潰れていく。

 あれから彼が、態度を変えたと言うことはない。やはり特に自分から喋ることなく、だからといって誰の話に熱心に聞き入るでもなく、そういった誰かの行為に興味を示す風すらなかった。かといって、さっさとオサラバしたいのかと女子のひとりが冗談混じりに勘繰ったりすると、ふんわりと柔和に口許を綻(ほころ)ばせる。さり気無い仕草で彼女がそれ以上の好奇心を誘っても、彼は、ただそれだけだった。

 そして、麻祈を見ていた紫乃こそ、もうその場に乗るに乗れなくなってしまっていた。

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(……なんか既知感あるな。この感じ)

 ハイスピードなやりとりに、大学時代、試験直前になっては複数名の同級生から泣きつかれた記憶が蘇る。大体三人くらいが常連で、五人前後が科目によって入れ替わるのが常だった。実は麻祈が、試験そのものよりも、彼や彼女らへの傾向と対策に苦慮していたとは、誰ひとりとて気付いておるまい―――特に、当のそいつらは。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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