「彼女には、いつもお世話になっています」
「いえこちらこそ。じゃなくて、あたしこそお世話になってて。彼女には。あれ?」
またしても独自の罠にかかっている坂田を、麻祈は軽く笑んでやりすごした。こちらの小出しを餌に相手から本命を釣り上げるいつもの手口で、会話を展開していく。
「俺はもっぱら今の職場に来てからの付き合いですが、坂田さんは佐藤とは長いんですか?」
「ええと、高校の終わりから」
「それはそれは」
麻祈は頷いた。ただしそれは共感を覚えたからでなく、いまいち実感が湧かなかった“高校の終わり”とやらから今日までの重さをやりすごすための合いの手でしかなかったが。
どうやら、失策ではなかったらしい。気分を害した素振りなく、坂田はそのまま続けていった。
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[2回]