. 手にした紙―――どうやらレシートらしい―――を差し出しつつ、言ってくる。
「もしよろしければ、佐藤に繋がらない時は、こちらにどうぞ」
「え?」
「俺の携帯電話の番号です」
とどのつまり、個人的な連絡先。受け取るなんて、そんな。
ニュース速報のような警告が後ろ頭を射てくるけれども、
「俺なりに心当たりがある居場所に、佐藤がいるか連絡が取れるかもしれませんから。どうぞ」
「あ、はい。すいません……」
自意識過剰だった。羞恥に悶える。それを見られたくないなら、彼の目を引く行動をしてはならない―――とのドミノ倒し的思考に流されて、紫乃は俯いたまま、おずおずと用紙を受け取った。大体にして、そういった目論見で連絡先を交換するなら、さっき合コンの終わりにそうした時に、紫乃とも携帯電話で赤外線通信していたはずなのだ。思い上がりも甚だしい。
その時だった。自分の鞄の中から、携帯電話が震える。通話の振動だった。
それを見下ろしたのと入れ違いに、上から麻祈の囁きが降る。
.
「―――あちらの方が、お姉さんですね」
彼の視線を追えば、ロータリーの一角に、見慣れた浅黄色の自動車が停車していた。乗車しているのは、もちろんのこと、見慣れた姉だ。いつも通りのふてぶてしい素顔で、こちらへの合図に手を振っている。
彼女と目が合うと、携帯電話の鳴動は切れた。一応、了解の意で手を振り返した紫乃へと、麻祈の済まなそうな謝罪が呟かれてくる。
「引きとめてしまったようで。申し訳ありません」
「いえいえいえ! とんでもないです。わたし、行き先が一緒の人がいて安心したんです。本当に」
「それは良かった」
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