「……あんた、やっぱあの人に駅まで送ってもらったんだわ」
「ええ?」
面食らって、紫乃の声が裏返った。
「そんなの困るよ。わたし、そりゃ、店から出て、あの人についてったけど。それは、駅までの細かい道順が不安だったからで、だからこそわたし、こそこそしてたし―――大通りにさえ出れたら、ひとりでそれからロータリーまでいける自信あったから、ちょっとそこまで目印になって欲しかっただけで。送ってもらうなんて、そんな、その人にだって予定あるのに、邪魔できないよ」
「だからわざわざその人、行き先が駅だなんて言ってくれたんでしょ」
「え? え?」
.
「駅まで送るって言ったら、いいですって断りそうだなって察したから、自分も駅に行くのが目的ですって表現に変えたんでしょ。ついでならってあんたも頼みやすくなるし。本音は隠したけど嘘はついてないから、あんたを騙したことにもならない」
「でも、」
「紫乃。あんた、その人と連れ立って歩いてて、その人から恩着せがましいこと言われた? ゴメンね歩くの早いかなぁ? とか。荷物持とうか? とか。足痛くない? とか」
急に目先を変えられては、異論も反論も続けることが出来ない。つまりは、議論するために、問いに応じるしか。
紫乃はうめいた。
「い、言われてないけど」
「そーいうの尋ねてこないんだって、あんたは思いも寄らなかった?」
「うん」
「なんで?」
「なんでって……目的地が一緒なだけだし」
「そうとしか思えなかった?」
「だって。あのヒト本人がそう言うんだから。お姉ちゃんが言ったようなことも訊かれなかったし。ただ、じっと並んで歩いてきただけで」
「―――……うわ」
露骨に、姉が身を引いた―――現実には、運転座席の枕めがけて背をそびやかした程度だったが。心持ち的には、恐らく、実妹の鈍さにドン引きした。
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